一社独壇場だった損保市場に烈風
「東京海上とほぼ互角の水準になった」
MS&ADインシュアランスグループホールディングスの柄澤康喜社長は9月8日に開いた会見で、こう語った。同日、英損害保険大手アムリンを総額約6420億円で買収すると発表。売上高に相当する保険料収入は単純合算で3兆3578億円にまで拡大する。国内首位の東京海上ホールディングス(HD)の3兆4136億円を完全に視界にとらえる。
かつて損保業界は東京海上HDが業界のリーディングカンパニーだったが、三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険の経営統合でMS&ADが誕生し、規模では抜きつ抜かれつのつばぜり合いを演じる。
今年に入ってからも、東京海上HDが6月に約1兆円を投じて米保険会社HCCインシュアランス・ホールディングスを買収。突き放したかと思いきや、同じく買収策でMS&ADが肉薄する今、両者の次の一手の俎上に載るのが生保事業ではないかとの観測が広まる。
動けない三井住友とあいおい
金融自由化以降、損保系生保は損保代理店が自動車保険などと一緒に医療保険などを取り扱うことで事業を拡大。
「損保は自動車保険の契約更新で定期的にお客様と出会える機会がある。これは生保の営業とは違う大きな強み」(大手損保社員)
なかでもMS&ADは、傘下の三井住友海上あいおい生命保険と三井住友海上プライマリー生命保険の保険料収入合計額が約1兆5000億円にまで成長した。中堅生保のソニー生命保険や富国生命保険をしのぐ規模を誇る。
一方、東京海上HD傘下の東京海上日動あんしん生命保険の保険料収入は7791億円。MS&ADの半分にとどまる。かつて東京海上HDは、結果としては頓挫したが朝日生命保険を傘下に収めようとした過去を持つ。損保、海外に並ぶ柱として生保事業を掲げており、MS&ADに比べて伸長余地は大きいため、てこ入れ策は常に市場の注目を集めている。MS&ADも生保事業をこれまで以上に拡大する可能性も否定できない。「名実ともにナンバーワンを目指す」と宣言するものの、売り上げはともかく利益面では東京海上HDの後塵を拝している。