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山田修「間違いだらけのビジネス戦略」

東芝の第三者委、意図的に巨額減損を見過ごした疑い 1兆円毀損させた経営陣を無罪放免

文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント

 さて、兆円規模に上る経済毀損額に対して70億円だけの課徴金? それは一体、どれほどの懲罰的な意味を持つというのか。

 また、東芝は11月7日に田中久雄前社長ら歴代社長3人を含む旧経営陣5人を相手取り、計3億円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。しかし、本来は現旧役員28人に対し総額10億円の損害賠償を求める訴訟を起こすように、ある個人株主が東芝に求めたという経緯がある。

 東芝によるこの提訴により、その個人株主が現経営陣を含んだ訴訟を起こすことを防ぐこととなった。また、「5人に対して3億円」というのも大企業の元役員に対してはまことに少額で、前述した「兆という資産価値の滅失」に対して甚だバランスが取れないものだ。

ムラ社会のかばい合い

 前出日経ビジネス記事で紹介した記事によれば、室町正志現社長もWH減損案件にかかわったことからも、一連の「不適正経理処理」への関与も取りざたされる状況となった。その可能性を勘案すると、「同じ穴の貉(むじな)をかばった」とまではいわないが、経営責任を共有していた同志・先輩に武士の情けをかけてしまったとみられても仕方がないのではないか。

 今回の事件を「プレイヤーズ・セオリー」で見ると、主要登場プレイヤーは次の通りだ。

・3人の直近歴代社長
・現経営者
・監査法人
・第三者調査委員会
・証券取引等監視委員会(及び監督官庁である金融庁)

 今回の事件で私が思うのは、粉飾が引き起こした巨額の経済的毀損、つまり「罪」に対して課せられるべき「罰」がとても矮小なものとなろうとしていることだ。この5者が互いに相手の立場や生き残りを慮り、裏でなあなあのコミュニケーションを取るか、「阿吽(あうん)の呼吸」で叩き潰さない程度の甘い処罰での落としどころを見いだそうとしている。同じ会社やつながりのある組織同士での、「知り合いは助け合い、かばい合う」というムラ型文化の麗しい発露と観察することができる。

 しかし、「そんなことは許されない」と私は考える。

 アメリカでは01年に倒産したエネルギー会社エンロンが、倒産前に不正経理により株主に損害を与えたとして、8人の経営責任者が刑務所に入った。東芝の前経営者たちに責任があったとすれば、「5人で最大3億円」などという事態で収束させようとするのは犯罪的といえるのではないか。

山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役

山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役

経営コンサルタント、MBA経営代表取締役。20年以上にわたり外資4社及び日系2社で社長を歴任。業態・規模にかかわらず、不調業績をすべて回復させ「企業再生経営者」と評される。実践的な経営戦略の立案指導が専門。「戦略カードとシナリオ・ライティング」で各自が戦略を創る「経営者ブートキャンプ第12期」が10月より開講。1949年生まれ。学習院大学修士。米国サンダーバードMBA、元同校准教授・日本同窓会長。法政大学博士課程(経営学)。国際経営戦略研究学会員。著書に 『本当に使える戦略の立て方 5つのステップ』、『本当に使える経営戦略・使えない経営戦略』(共にぱる出版)、『あなたの会社は部長がつぶす!』(フォレスト出版)、『MBA社長の実践 社会人勉強心得帖』(プレジデント社)、『MBA社長の「ロジカル・マネジメント」-私の方法』(講談社)ほか多数。
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