東芝は「意図的に損失を隠したわけではない」と釈明している。東証に開示義務違反を指摘され、東芝は仕方なく公表した格好になった。
のれん代という重荷
東芝は06年にWHを5400億円で買収し、のちに出資額は6600億円に増加。当時のWHの純資産は2000億円程度とみられ、差し引き3500億円相当を東芝は「のれん代」として計上した。東芝が採用している米国会計基準では、毎年減損テストを行い、価値が簿価を下回ると減損することになっている。
東芝は15年9月末時点で、WHののれん代3441億円を資産に計上している。WHを含む東芝全体の原子力事業の「のれん及び無形資産」は5156億円に達する。WH全体の収益性が低下すれば、のれん代の減損処理で東芝本体に巨額損失が生じる恐れがある。
東芝の16年3月期決算に対して、一層外部の目が厳しくなる。
「監査法人の新日本監査法人も、東芝に言われるがままに決算を『適正』とすることはできないだろう」(大手監査法人幹部)
WHでどの程度減損処理をするのかが、東芝の決算の最大の焦点となるだろう。
危機感を募らせた東芝は、WHの経営が順調にいっているとの広報に力を入れる。11月20日付朝日新聞でWHのダニエル・ロデリック社長兼最高経営責任者(CEO)は「来年、インドで新たに原発6~12基の建設を受注する見通しである」と述べた。同氏は「原発の新規建設から保守点検などに事業の中核を移している」とした。
東芝の不正会計問題で株価が下落して損害を受けた個人株主70人が12月中旬までに、東芝を相手取り、3億円の損害賠償を求めて集団訴訟を起こすという。同社の株価は決算の不正問題が発覚する前日の4月2日には510円だったが、11月20日の終値は290.4円で4割以上下落した。年初来の安値は11月25日の281.0円。ほぼ最安値圏にある。これ以上、集団訴訟の参加者を増やさないためには、株価を上げる好材料を提供する必要がある。
受注契約を正式に結んだわけでもないのに、WHのCEOが「インドで6~12基の原発を受注する」とメディアに明らかにしたのは、株価引き上げ作戦の一環とみられるが、東芝の苦しい台所事情をのぞかせる。
減損テスト
室町正志社長は11月27日、ようやくWHの業績についての説明会を開き、業績を初めて公表した。「自分が先頭に立って、積極的な(情報の)開示に努める」と誓ったが、市場が室町社長を見る視線は厳しくなっている。WHの減損について「残念だが、(WHの担当ではなく)まったく認識していなかった」と平然と述べたことは、市場関係者を驚かせた。