窪田氏はメモを残していた。
<三枝子夫人は、30分ほどにわたり、窪田氏に対し、「あなたは大戸屋の社長として不適格。相応しくないので、智仁に社長をやらせる」「あなたは会社にも残らせない」「亡くなって四十九日の間もお線香を上げにも来ない」「何故、智仁が香港に行くのか」「私に相談もなく、勝手に決めて」「智仁は香港へは行かせません」などと述べた>
この事件が社内では「お骨事件」と呼ばれていたことを報告書は、しっかり記録している。9月14日のお別れ会を機に、窪田氏はメインバンク三菱UFJ信託銀行出身の河合直忠相談役(のちに取締役)に仲介役を頼んだ。智仁氏は河合氏に<「今すぐ社長になりたい」「窪田なんか使い物にならないからいらない」>と言ってのけた。
11月、経営陣は智仁氏をヒラの取締役に降格。会社側は創業家保有株の買い取りを打診。創業家側は「乗っ取りだ」と反発。16年2月、智仁氏は取締役を辞任。保有株を担保に相続税を支払い、三枝子氏が持ち株比率13.15%の筆頭株主、智仁が5.64%の2位の株主となった。16年4月、河合氏がまとめた調停案に創業家と経営陣は合意。「故・久実に功労金を支払い、智仁は2年後をメドに取締役に復帰する」という内容だった。5月、創業家の代理人が登場し、合意は破棄された。
大戸屋HDは17年6月28日、都内で開いた定時株主総会で、創業者に功労金2億円を支払う議案を可決した。功労金は、実質的な創業者で15年に亡くなった久実前会長に対するもの。同社は役員退職慰労金制度を廃止しているため、功労金の支払いについては総会での承認が必要だった。
智仁氏の処遇問題が残ったが、智仁氏は大戸屋を去り、スリーフォレスト(東京・新宿区、非上場)という宅配サービス会社の社長になった。智仁氏は18年1月25日、お披露目会見を開いた。介護を必要とする高齢者が簡単に外食チェーンのメニューを注文して受け取れる「ハッピーテーブル」というサービスだ。宅配サービスを軌道に乗せるための事業資金として、大戸屋HDの株式をコロワイドに売り渡したとみられる。
(文=編集部)
【続報】
コロワイドの野尻公平社長は11月15日、大戸屋HDに対するM&A(合併・買収)を視野に入れている、と語った。コロワイドの2019年4~9月決算説明で「業務提携かM&Aという話になると思う。私は大戸屋に非常に魅力を感じている」と述べた。
大戸屋HDは既存店売り上げが不振で、19年4~9月期の連結決算で上場以来初の営業赤字に転落した。野尻社長は「コロワイドのセントラルキッチンを活用すれば、大幅なコスト削減が可能」とみている。
11月16日付日本経済新聞で大戸屋HDは「正式な提案があれば話し合いに応じる」とコメントした。コロワイドと大戸屋HDは近く、業務提携の具体的内容について、協議を始めることになる。コロワイドは、現在の持ち株比率(発行済株式の18.67%)を、少なくても株主総会で拒否権を発動できる3分の1以上(34%以上)、できれば過半(50%以上)にまで引き上げたいと考えている。
コロワイドと大戸屋の協議がどこまで進むのか。大戸屋の現経営陣(窪田健一社長など)は安泰なのか。2020年3月期決算がまとまるまでに結論を出すことになるとみられる。大戸屋HDの11月15日の株価(終値)は2252円(14円高)。2258円が高値。コロワイドのM&Aの意向が公式に表明され、業績が悪いとはいえ年初来高値(3月26日の2379円)を抜く可能性がある。