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ルディー和子「マーケティングの深層と真相」(12月27日)

ユニクロ、ヒートテック依存商法の限界…悲願の「強いファッション性」を断念か

文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学教授

 製造業のパーソナリティを持つブランドが、ファッション産業のパーソナリティも併せ持つということは可能なのか。二重人格とまではいかなくても、かなり矛盾した性格を持つブランドということになる。

 ユニクロがファッショナブルであろうと幾度か試みたのは、そうでないとインディテックスの売り上げを抜けないと考えていたからだ。しかし、どうも最近はその路線はあきらめたようでもある。代わりに柳井正会長兼社長は、3Dプリンティングを含めたITを駆使したマスカスタマイゼ―ションのようなことを考えているといわれる。

 いずれにしても、ユニクロブランドはファッション路線をあきらめて徹底的に機能性を追求すればよい。だが、ヒートテックという機能性だけで世界市場を魅了するのは難しいようだ。「寒さ対策の機能性に人気があるのは、冷え性という概念があるモンゴル系だけなのではないか」「白人系は基本的に体温が高いので、暖かい下着をありがたがる傾向は少ないのではないか」「温かい下着をつけてもスリムな外観を保ちたいという気持ちを持っている消費者は、欧米には少ないのではないか」といった意見もある。

 確かに、そういった傾向はあると思う。特に、欧州に比べると暖房費節約の意識が低く、移動は自動車が中心の北米では、日常着に寒さ対策はあまり考えないかもしれない。だが、温暖化が進むなか、消費者の意識は変わるし、啓蒙活動によって変えることはできる。問題は、ユニクロがそのためにどれだけ時間とお金を投資できるかだろう。

 ヒートテックという機能性が欧米にはすぐに受け入れられないとして、「世界に通用する機能性とは何か」といえば、やはり環境だろう。たとえば、焼却しても二酸化炭素がほとんど出ないとか、土に埋めたら土にかえるとか、そもそも筆者などが思いつかないような点で革新的にエコロジカルな洋服をつくり続ければいい。それがユニクロというブランドのパーソナリティであり、アイデンティティだと思う。

安さはブランド構築の邪魔になる

 ただ、勝手なことをいわせてもらえば、定番製品の色やデザインを、工業製品の美しさのようなスマートなものにはしてほしいと思う。今のユニクロがフィーチャーフォン(ガラケー)だとするならば、iPhoneのようなデザインにして、洗練された機能性を表現したスマートフォンの“ユニクロS”をつくってほしい。

 ついでにいえば、ユニクロSは価格も高くする。欧米の旗艦店はニューヨーク5番街などの一等地にあるが、こういった地では価格が安いことがかえって商品を理解してもらうには邪魔になることがある。いくらヒートテックの機能性を説明しても、値段が安いとニューヨークの消費者には真面目に考慮してもらえないのだ。

 消費者市場においては、強烈な個性がなければ無数の商品の中で埋もれてしまう。「二兎を追う者は一兎をも得ず」のことわざ通りだ。自分のブランドの個性を選択しなければいけない。あれもこれも追うことは、それがたとえ短期的に売り上げを伸ばすことであっても、ぐっとこらえて我慢しなくてはいけないのではないか。
(文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学教授)

ルディー和子/マーケティング評論家

ルディー和子/マーケティング評論家

早稲田大学商学学術院客員教授。
国際基督教大学卒業後、結婚・渡米を経て帰国、
米化粧品会社のエスティ ローダー社で働きながら
上智大学国際部大学院経営経済修士課程修了。
エスティ ローダー社ではマーケティングマネジャー、
出版社タイム・インク/タイムライフブックス社での
ダイレクトマーケティング本部長を経て、
マーケティング・コンサルタントとして独立、
自身の会社ウィトン・アクトンを設立
ルディー和子オフィシャルブログ

Twitter:@shouhigaku

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