これが、参院選向けの「高齢者優遇」と批判されると、今度は16年度本予算で、希望出生率1.8の実現のためと称して子育て支援に9000億円弱を配分したのだ。2人以上の子どもを持つ低所得者世帯への支援として、第1子の年齢にかかわらず第2子は保育料を半額に、第3子以降は無料にすることなどが柱で、29万人が恩恵を被るという。
だが、夫婦(2人)に対し出生率が1.8では、人口は減り続ける。本気で人口1億人を維持し、質だけでなく規模の面でも活力ある経済を持続するつもりならば、小手先のバラマキでは焼け石に水だ。毎年7~8兆円の子育て支援予算を投じるだけでなく、1000万人を超す移民の受け入れが不可欠になる。
移民の受け入れは、これまでの日本の社会を破壊しかねない痛みを伴う政策だ。安倍政権は議論の俎上にさえ載せていない。必要性をひた隠し小手先で人気取りを狙う、そんな選挙目当ての安倍政権の姿勢が浮き彫りになっている。
家計の重荷の代表格になっているスマートフォン(スマホ)の問題もある。高市早苗総務大臣が昨年12月18日、NTTドコモなど大手3社の社長に値下げを迫る指導文書を手渡し、今月中下旬にも総額で月額5000円以下のライトユーザ向け格安プランが登場すると期待されている。この話も背景に参院選対策があり、やはり2015年9月に安倍首相が「携帯料金等の家計負担の軽減は大きな課題である。高市総務大臣には、 その方策等についてしっかり検討を進めてもらいたい」と是正指示を演出してみせたのが発端だ。
筆者が取材する限り、この格安プランは、今のプランの上限まで使わないユーザが対象で、テザリング、動画視聴、ゲームを楽しむ多くのヘビーユーザのニーズに応えるものではない。消費者のかゆい所に手の届く政策とはいえず、課題がたくさん残った。
さらに大きな問題は、携帯電話の料金規制は1990年代半ばに撤廃されており、政府が権限を持たないにもかかわらず、民間企業経営に口出ししたことだ。カルテル体質を持つ業界の肩を持つ気はないが、政府の介入は自由主義経済の原則に反する。本来ならば、関連法の改正を行い、規制権限を復活させるという手順を踏むべきだった。
実効性の乏しい政策ばかり
そして、最後が、来年4月の消費増税に伴い導入することになっていた軽減税率の問題である。安倍官邸は、消費税率の引き上げと同時の導入に積極的な姿勢を見せ続けた。財務省べったりで導入そのものの先送りや対象範囲の絞り込みを目指す議員と対峙し、野田毅前自民党税制調査会会長を事実上更迭したほか、積極論を掲げる公明党への再三の援護射撃を行ったのだ。その手法は、郵政族議員を悪者に仕立てて、郵政選挙の勝利を勝ち取った小泉純一郎元首相を彷彿させるものだ。