ファナックの対応は早かった。15年2月16日、1300億円を投じ栃木県内に工作機械部品の新工場と研究所を新設すると発表した。しかし、サード・ポイント側はこれに満足せず、「我々はファナックの最大級の株主になる」と表明。再び資金の有効活用策として自社株買いを強く要求した。
株価急騰
資本の配分をめぐる攻防は、サード・ポイントに軍配が上がった。ファナックは4月、株主との対話を重視する方針に転換。SR(シェアホルダー・リレーションズ)部を新設した。株主との対話の窓口となるSR部を通じて19の機関投資家の意見を聞いた。1兆円余の手元資金の有効活用策として、積極的に利益を株主に還元するよう求める意見が多かった。
ファナックは4月27日、連結決算の配当性向を現行の30%から60%と、2倍に引き上げるほか、機動的に自社株買いを実施。15年3月期から5年間の平均で、配当と自社株買いを合わせて利益の最大80%を株主に回す株主還元策を明らかにした。
さらに5月29日、自社株買いで保有している株式(金庫株)3356万株を6月10日付で消却すると発表。これは発行済み株式数の14%に相当し、金額は9200億円。消却すれば、自社保有株が株式市場に出てくる懸念を払拭できる。
ファナックは発行済み株式の18%を自社で保有していた。かつて親会社だった富士通が段階的に株を手放した際に引き受けてきたからだ。いずれこの株が市場に放出され株価が押し下がる要因になると指摘されていた。サード・ポイントが自社株の消却を求めたのも、こうした懸念をなくして株価上昇に弾みをつけるためだった。
株主還元策を発表した翌日の15年4月28日、ファナックの株価は上場来高値の2万8575円をつけた。株価は15年大発会(1月5日)の終値1万9730円から44.8%上昇した。サード・ポイントが要求した株主還元策はすべて実施され、株価は急騰した。
15年3月期の年間配当金は1株当たり636.62円で、14年3月期の170.06円から3.7倍となった。6月26日に開催した株主総会で社長の稲葉氏は95.2%という高い賛成率で再任された。
路線転換
ファナックはベンチャー投資に積極的だ。15年8月、東京大学発のベンチャー企業、プリファード・ネットワークス(PFN)に9億円出資した。出資比率は6%で、PFNは機械などが自ら学習する人工知能(AI)技術に強みを持つ。産業用ロボットや工作機械とAIを連動させる研究・開発で連携する。トヨタ自動車は、自動運転システムを実用化する一助としてPFNに出資している。