気掛かりなのは、その高い成長の牽引役として政府が挙げていたのが民間企業の設備投資である点だ。政府は16年度の設備投資が前年度比で実質4.5%伸びると見込んでいた。ところが、今回の機械受注統計は、昨年晩夏の第1次チャイナ・ショックを受けて、早くも昨秋のうちに企業が設備投資の縮小に動いていたことを裏付けたのである。
さらに、年初からは、第2次チャイナ・ショックというべき異例の世界同時株安が続いている。こうした状況では、企業の投資マインドが一段と冷え込むのが普通だ。そうなれば、企業の設備投資は、経済成長の牽引役どころか一転して経済の足を大きく引っ張る原因に変容しかねない。
もともと発足以来、安倍政権は法人税減税などを呼び水にして、財界に積極投資や賃金の引き上げを再三呼びかけてきた。それにもかかわらず、企業の腰は重かった。そもそも16年度の政府経済見通しが描いたシナリオそのものが華やかすぎた面も否定できないだろう。
ところが、安倍首相や閣僚たちは異口同音に「株安は中国や中東に原因があり、日本経済は順調だ」と判で押したような発言を繰り返している。
まず、安倍首相は1月8日の衆院予算委員会で「株式市場はその国の経済の実態を表している場合もあるが、今の市場(の下落)は中国の先行きや中東情勢、あるいは北朝鮮の核実験などの要素を映した短期的なもの。短期的なものをみて、日本経済の実体に当てはめるのは間違いだ」と言い放った。
同日の記者会見では、麻生太郎財務大臣が「日本の経済のファンダメンタルズは悪いわけではない」ので、「おたおたする話ではない」と述べたほか、甘利明経済財政・再生大臣も「(日本株安は)外的要素が大きい」と首相に足並みを揃えた。そして、先週になっても、菅義偉官房長官が14日の記者会見で「日本経済は足腰がしっかりしている」と主張し続けているのだ。
要人たちの言葉には、安倍政権が今夏に参議院選を控え、あわよくば衆議院とのダブル選挙に持ち込み、両院で一気に憲法改正の発議が可能な議席を確保しようとの狙いがあるのだろう。不都合な話は認めたくないという思いを感じさせるものだ。
株安は企業の投資マインドと家計の消費マインドを冷え込ませる要因になる。グローバル化に伴い、中国や中東、米国の経済情勢が日本の外需を大きく揺り動かすリスクもある。安倍政権には、せめてそうしたリスクの存在を真摯に認めてもらいたい。そして、G7やG20を通じた国際協調策を構築するためのリーダーシップを発揮すべきだ。今年は、伊勢志摩サミットでG7首脳会議の議長国の役割もある。安倍政権の鼎(かなえ)の軽重が問われている。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)