丸の内タニタ食堂を手始めに12年6月にはNTT東日本関東病院内にも出店(店舗運営は飲食店経営のきちりに委託)。北海道大学病院や住友病院内のレストラン、ファンケルの社員食堂、経済産業省内の食堂のメニューも監修した。
「タニタの『社員食堂』を起点とするビジネス展開」は12年、日本マーケティング協会が選出した「第4回マーケティング大賞」を受賞した。
世界のトップシェアになった体脂肪計
タニタは1923年、金属加工業の谷田賀良倶商店として創業。最初に手掛けたのは、たばこを入れるシガレットケースだった。44年、谷田無線電機製作所(現・タニタ)を設立して法人化。戦後、パン食が広まったことでトースターの製造に乗り出した。
59年に日本で初めて家庭用体重計を開発、「ヘルスメーター」と命名して販売。92年にタニタ最大のヒット商品が生まれる。体重だけでなく体脂肪率が測れる体脂肪計だ。体脂肪率が手軽に測れるという世界最初の商品はタニタの知名度を一気に高めた。家庭用体脂肪計は世界のトップシェアになった。
とはいっても、体重計や体脂肪計は頻繁に買い替える商品ではない。最近は歩数計、塩分計、睡眠計、尿糖計など生活に密着した商品を開発しているが、体脂肪計に続くヒット商品は生まれていない。その結果、年間売上高は146億円程度にとどまっている。
食の関連を経営の柱に据える
谷田氏は体脂肪計に安住していることに危機感を募らせた。タニタ食堂のレシピ本が爆発的に売れたことをチャンスとして、外食事業に乗り出した。体重計、体脂肪計などの計測器とともに食関連を経営の柱にしたい考えだ。宅配やタニタ食堂の店舗網を広げることで、20年度をメドに全社売上高の1割を食関連とする方針だ。
タニタ食堂はメディアに取り上げられ知名度は全国区になったが、話題性が薄れれば、どこにでもある食堂にすぎない。店舗数を3倍に増やすというが、当面の主力は病院内の食堂になる。しかし、厳密にカロリー計算したメニューを提供している病院内の食堂に食い込むのは容易ではないだろう。
弁当の宅配事業は大激戦区だ。高齢者向けを中心とした宅配弁当が伸びていることから、セブン-イレブンなど新規参入が相次いでいる。業界を牽引してきた居酒屋大手、ワタミの宅配事業は苦戦が続いている。
爆発的にヒットしたレシピ本の神通力はすでに消えている。食堂の多店舗化と宅配弁当で成果を上げることができるのか。上場会社であれば、投資家は不安を感じて持ち株を売るかもしれない。「3代目社長の無謀な賭け」といった厳しい見方も出ている。
(文=編集部)