ホンダジェット開発成功を呼んだ70年前の学術書、FBいいね!営業で売上増…共通点は?
古きをたずねて新しきを知る――。古典のなかにイノベーションのヒントが隠れている。今回は、温故知新の大切さを気づかせてくれる事例をみてみよう。
ホンダジェットのヒントは70年前の書物から
本田技研工業(ホンダ)とホンダエアクラフトカンパニーは、2015年末からホンダジェットの引き渡しを始めた。創業者である本田宗一郎氏の夢でもあった航空機事業に、ついに参入を果たしたのである。
7人乗り小型機であるホンダジェットは、主にビジネス用として使われる。北米・欧州・ブラジルがそのターゲット市場だ。ビジネス用小型ジェット機市場は年間270機ほどとされ、今後の成長が期待されている。ホンダはすでに100機以上の受注をしている模様で、米国で年間50機を生産する計画だ。
ホンダジェットの特徴は、「主翼の上にエンジンを置く」という常識を打ち破った構造だ。この構造で空気抵抗を減らして燃費を2割近く向上でき、室内空間も2割ほど広くできる。この常識外ともいうべき構造を着想し実現したのが、ホンダエアクラフトカンパニー社長の藤野道格氏だ。藤野氏が常識を覆す発想を得ることができたのは、まさに「古きをたずねた」結果なのである。
ホンダジェットのプロジェクトが一度中断し、藤野氏が研究拠点のあった米国から日本に戻っていたときのことだ。プロジェクト中断にもくさらず、どうしたらよい飛行機を開発できるか常に研究に余念がなかった。そんなある日のことだ。1930年代に書かれた流体力学の学術書を読み返していた藤野氏は、空気の流れを表現する数式のことを考えながら布団にもぐりこんだ。まさにそのときである。主翼の上にエンジンを置く着想を得たのだ。
すぐに跳び起きた藤野氏は、近くに紙がなかったので壁に掛けてあったカレンダーを破ると、その裏側に思いついたばかりのイメージ図をスケッチした。このとき得た発想のおかげで「これならホンダがやる価値がある」と社内で認められたのである。プロジェクトが再び動きだした瞬間であった。
最新の航空機を開発している技術者が転換点となる発想を得たのが、1930年代に書かれた流体力学の本だというから驚きだ。教科書のような書物は一度学ぶとおさらいすることがない。そんなことはすでに知っていると思いがちだからだ。しかし、この事例のように、知っていると思い込むことでイノベーションのヒントをつかみ損ねてしまう。何事も基本が大切であり、その基本こそ身につけるのが難しいものだ。