(「Wikipedia」より)
12年12月には、米ユナイテッド航空やカタール航空の787でトラブルが発生。今年1月7日には、ボストン・ローガン国際空港に駐機中の日本航空(JAL)機で、補助動力装置のバッテリーから発火するトラブルが発生した。そして1月16日、山口宇部発羽田行きの全日本空輸(ANA)機の機内で発煙し、高松空港に緊急着陸するという重大インシデントが発生した。
当初は「787の安全性を信じている」としていた米連邦航空局(FAA)も「緊急耐空性改善命令」を出し、1月16日、各航空各社に対して787の運航を当分見合わせるように命じた。国土交通省も運航停止命令を出し、同省とFAAは共同で原因究明を続けているが、調査は難航し、運航再開のめどは立っていない。
787は、大幅な燃費改善による航続距離の延長を目指し、新しいシステムや最先端の技術を駆使して、従来機を2割も上回る燃料効率化を達成している。また、軽量化を追及して電気化された787は、従来の飛行機よりも数倍の電気が必要となっており、世界で初めて航空機にニッケルカドミニウム電池に代わりリチウムイオン電池を搭載した。
だが、「この軽量化に伴う大幅な変更設計が、今回起こっているトラブルにつながっているのではないか?」とも懸念されている。
●国交省からの命令前に、自主的に運航停止を決めたJALとANAの英断
この787は、2004年にANAが50機を発注したことにより開発が始まった。ローンチカスタマー(ファーストユーザー)となったANAへの引き渡しは、08年5月の予定だったが、度重なるトラブルのため7回にわたって延期され、11年9月、ようやく初号機が引き渡された。
そして11年10月、成田ー香港間で世界初の商業運航を行い、翌11月からは定期便として就航した。ANAへの納入から約半年遅れの12年3月には、JALへの引き渡しも始まった。
ある航空業界関係者A氏は、「今回のトラブルも、今までのような燃料漏れ等、初期トラブルの範囲のものだと思っていたのですが」と前置きし、次のように語っている。
「ANA機から乗客が緊急脱出シューターを使って脱出している映像は、ショッキングでした。機体にも大きく『787』と装飾されていたように、ANAは大量の宣伝費を使って787をPRしてきましたが、水の泡となってしまいました」
国交省は、米運輸安全委員会(NTSB)、FAA、ボーイング社と合同で原因究明調査を進める中で、1月21日から、バッテリーの製造元であるGSユアサ・コーポレーションに立入検査を開始し、トラブルを起こした787のバッテリーを宇宙航空開発研究機構(JAXA)でCTスキャンし解析するなど、バッテリーを中心に調査を進めている。これは、1月7日にJAL787で発生した火災の出火元が補助動力装置(APU)用バッテリーだったためだ。
A氏によれば、「航空会社は、自国に限らず飛行機事故やトラブルが起きたとき、どの航空会社が起こしたのかよりも、どの型式の飛行機かということを真っ先に気にかける」という。実際にANAとJALは、緊急点検のため787の運航中止を自主的に決めた。この自主的な運航中止決定について、A氏は次のように評価する。
「機体に絶対的な安全性を確認できないから運航を停止するわけですが、運航を停止すれば、その分経営に大きな影響をおよぼすわけですから、普通ではなかなか決断できません。ANA・JAL両社ともに英断だったと思います。それに、国交省やFAAから命令される前に決断したのもよかったと思います」
事実、その後、FAAと国交省はリチウムイオンバッテリーの安全性が確認できるまで運航停止を命令し、ボーイングはFAAの運航停止命令が解除されるまで引き渡しをしないと発表した。世界中の航空会社が保有する50機の787のすべてが、運航を取りやめている。