コーラ飲料市場は今、販売実績(1億4900万ケース(業界推定)で横ばい。2012年も前年並み。そしてゼロ系コーラは4720万ケースで前年比8%減と、やや陰りを見せている。ところが昨年発売されたゼロ系コーラに分類されるトクホコーラは、発売から約8カ月の間に770万ケースと急成長している。
年間100万ケースが大ヒットだといわれる飲料市場の中で、先行したキリンメッツコーラがわずか2日で目標の100万ケースの5割を達成、4月に年間目標を600万ケース、9月には700万ケースに上方修正した。これに対して、トクホ飲料では「黒烏龍」でキリンに先行したサントリーが「ペプシスペシャル」を発売。キリンのヒット商品に追撃した。水面下で、いったい何があったのか?
「キリンは5年ほど前から、独自で初めてコーラを開発販売しようとしていました。しかし普通のコーラを販売したのでは、先発メーカーにかなわない。そこで、トクホコーラが検討されるようになったのです」(業界関係者A氏)
トクホとは消費者庁が定める「特定保健用食品」のことで、血圧や血中コレステロールの正常化や、おなかの調子を整えるなどの効果が期待できる食品で、同庁が審査し許可を与えた商品。キリンは、コーラに脂肪吸収を抑える食物繊維「難消化性デキストリン』(難デキ)を加えている。
しかし最初は、社内で「トクホコーラなどというものが、あってもいいのか?」と議論になったという。
「なにせ、前代未聞の取り組みです。社内では、だいぶもめたようです。しかし否定する理由もないので、最終的には『やってみようじゃないか』ということになったようです」(前出のA氏)
さらにキリン広報は言う。
「2007年の飲料業界はトクホブームに沸いていて、お茶のカテゴリーではすでに他社商品が人気を集めていた。どうせなら、他社の後追いをするよりも、新たな市場をつくろうと考えた」(キリン広報担当者)
サントリーへ闘志をむき出しにするキリン
キリンは、黒烏龍で先行されたサントリーに闘志をむき出しにした。しかし、それでもこれまでまったく経験のない新商品の開発。最初の臨床試験では、治験データなどが思うように集まらなかった。
「データの選び方を誤り、消費者庁のガイドラインでは、メタボの人を選ぶようになっていたのに、病気の人ばかり集めてしまったり、逆に健康な人ばかりを集めてしまいました。そこで、もう一度データを取り直し、やっとうまくまとまったのです」(業界関係者B氏)
実はその間、サントリーもペプシコーラを使ったトクホ商品をつくろうと、水面化で開発を進めていた。
「難デキのサンプルなどを使い、独自の研究を進めていました。ただ米ペプシコーラ本社は、コーラのレシピを門外不出にしているため、出してくれない。味のレシピについてはサントリーもアドバイスしましたが、最終的にはペプシの米国本社が決めたようです。そのあと、サントリーは日本でヒト試験や安全性に関する臨床試験などを行ったようです。サントリーはキリンに比べ3年ぐらいスタートが遅れたのですが、持ち前の開発力で、一気にその差を縮めました」(前出のB氏)。
サントリー・ペプシは、キリンにマーケット食われた
キリンは2010年10月にトクホ申請、昨年5月に発売にこぎ付けた。キリンメッツコーラが爆発的にはヒットすると「ペプシネックス」のマーケットが食われ、サントリーは11月13日、半年遅れで「ペプシスペシャル」を発売した。
辛うじてペプシスペシャルの健闘で巻き返しをかけたが、「ペプシ」ブランドの2012年販売実績は2900万ケースで、前年同期比3%減となった。
サントリー広報は次のように語る。
「『ペプシ』ブランドは3400万ケースで前年17%増、『ペプシスペシャル』は前年比プラス253%の600万ケースを目指します。そのために『ペプシネックス』はリニューアルし、“ゼロ系コーラ”としての価値をよりいっそう強化します。また『ペプシスペシャル』では490mlペットの強化に加えて、新たな容量として1.5Lペットを発売することで飲用機会の拡大を狙い、『ペプシ』ブランドの年間計画達成を目指します。また、TV-CMなどのコミュニケーション活動にも、積極的に取り組んでいきます」(サントリー広報担当者)
一方、猛攻をかけるキリンは2013年、「キリンメッツコーラ」を800万ケースにする目標を立てているという。果たしてトクホコーラ戦争はどちらに軍配が上がるのか、まだまだ目が離せない。
(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)