3月11日、J-CASTニュースは、ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長が北海道に100万枚のマスクを寄贈するために調達中だと伝えている。ことの発端は、自民党の甘利明衆議院議員のツイッターアカウントで「ニトリホールディングスの似鳥昭雄さんからは故郷北海道に100万枚のマスク寄贈です」とツイートしたことだ。
政府は3日、業者からマスクを買い上げ「北海道に1世帯40枚程度、計400万枚配布する」と発表し、メーカーや輸入業者に配布する指示を出している。当初は、実際に配布されたのは北見市などごく一部の地域で、1世帯7枚だったが、12日以降は順次計400万枚が配布されるということだ。
さらに政府は11日、民間に約250万枚供給できると公表しているが、相変わらずマスク不足が続いている。毎日のように小売店に並んでも手に入らない状態だ。それなのに、ニトリの会長は100万枚も調達できるという。どうしてなのか。創業の地である北海道のために「少しでも医療関係者のお役に立つように」という動機だというが、政府ですら民間に供給できるのは250万枚しかない。
誰もがマスクを欲しいが「感染者が一番多い北海道に優先的にマスクを配布するのは仕方がない」と納得する国民も多いだろう。しかし、医療従事者にマスクを提供するのは、何よりも優先されるべきである。政府は、医療従事者用のマスクも十分調達できたからこそ、民間に250万枚供給できると言っているはずだ。
そうであれば、民間企業のニトリが100万枚のマスクを調達できるのであれば、全国の店頭で販売するべきではないだろうか。そのほうが一般の人々も、おそらく北海道の人々も、皆喜ぶだろう。もちろん、北海道の医療従事者にすれば、マスクはどれだけあっても足りないかもしれないが、それはどの地域の国民も同じだ。
問題は、似鳥会長だから100万枚ものマスクが集められるのではないかということだ。ニトリへ商品を納入する企業にすれば、会長から「マスクをなんとかしてほしい」と言われれば、今後の取引のこともあり、ニトリに優先的に供給する可能性がある。そうでなければ、今の時期、どうして100万枚ものマスクが集められるのか。
誰のためのマスク買い占めか
一方、ソフトバンクグループの孫正義会長は「簡易PCR検査を無償で提供したい。まずは100万人分」とツイートしたが、医療崩壊を招くという批判が多く、11日に厚生労働省を訪問し「100万枚のマスクを介護施設と開業医へ寄付する。発注は終わった」と報告している。
政府も「北海道の医療従事者のことは任せてくれ。調達できるのであれば、全国のニトリの店舗で販売してほしい」、孫氏には「配布先は厚労省に任せてほしい」となぜ言わないのか。北海道だけが困っているわけではない。介護施設や開業医だけが困っているわけではない。創業の地だからといって、世界的な大企業だからといって、その会長の威光で寄贈するためにマスクを買い占めていいものだろうか。
医療従事者にマスクを供給するのは国の役目だ。民間企業は、全国民に平等に行き渡るように製造・流通・販売するべきだ。大企業であればあるほど、自分のお世話になった方に優先的に無料で供給するというのは、あまりにも身勝手すぎるのではないだろうか。
PCR検査無償提供の評判が悪かったから、今度はマスク寄付に変える。なんでもいいから、とにかく寄付行為がしたかっただけではないだろうか。それであれば、国に1億円でも10億円でも寄付すればよい。
普通に製造していれば、国民に少しは回るはずだったマスク200万枚が、特定の場所に寄贈される。いったいこの2人は、誰のためにマスクを買い占めているのだろう。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)