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有馬賢治「日本を読み解くマーケティング・パースペクティブ」

新社会人、すぐ会社を辞めないために知っておくべき「社内評価のタイムラグ」

解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季
新社会人、すぐ会社を辞めないために知っておくべき「社内評価のタイムラグ」の画像1
「gettyimages」より

 就職みらい研究所によると、2019年12月の時点で、2020年春に卒業する大学生の就職内定率は95.4%(大学院生を除く)と好調だ。これは過去最高を記録した昨年と同期比で同じ数字であり、依然として売り手市場が続いている。しかし、そのうち約3人に1人は3年以内に退職してしまう状況は大きく変わらないだろう。本連載では、昨年3月に配信した『就活は頑張ったのに入社直後に失望…職業選択のミスは、なぜ多く起こるのか?』でも、早期退職しないための職業選択の重要性を解説した。

 今期の就活生の多くがすでに内定先が決まり、新社会人としてのスタートを控えている時期なので、今回は“やりたい仕事をゲットする心構え”を立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に解説してもらった。

仕事の報酬は仕事

 まず有馬氏は、「新社会人が仕事を始めるにあたって、学生時代に『仕事』として想像しているもののイメージと、実際の業務のギャップに多くの人が悩む」ことを指摘する。

「学生時代は世の中の仕事に対して華やかな部分にだけ目がいきがちですが、実際は準備期間や裏側の地味な仕事が圧倒的に多いのが現実です。社会人にとっては、それは当たり前のことですが、学生でそのことを実感できる人はほとんどいません。その気持ちのまま仕事に対峙してしまうと、準備段階や裏方的な作業に対する価値を軽視しがちになってしまうのです」(有馬氏)

 こうした仕事に対する心構えがないと、下準備の単純作業を任された時に「こんな仕事、やってられるか!」と投げ出し、早期退職につながってしまうのだ。しかし、現在華やかな場面で活躍している先輩たちも、当然だが最初からそのような仕事を任せてもらえたわけではなく、誰しもが下積みを経験している。では、そこから業務的にステップアップするためにはどうしたらいいのか。

「やりたい仕事をしたいのであれば、周囲に『この人にならこの仕事を任せても安心だ』と思わせる証拠を見せる必要があります。そのためには現状で与えられた仕事とどう対峙するのかが重要になってきます。上司が予想する期待値程度の仕事しかしていなければ、それ以上難易度の高い仕事を任せる判断材料を上司に提供していないことになるのです。逆に言えば、期待以上のパフォーマンスを提示できるのであれば、次のステージの仕事が回ってくる可能性が高くなるということです。つまり、与えられた仕事に対する『評価』という報酬は、“次のステージの仕事”なのです」(同)

 期待以上の仕事をするためには、ただ言われたことだけをこなすだけではなく、なぜその仕事が必要なのか、発生しているのかを考え、工夫する必要がある。

 歴史の逸話を見てみると、石田三成が豊臣秀吉に見いだされたエピソードに“三献茶”というものがある。お寺に立ち寄った秀吉は、喉の渇きから寺小姓の三成にお茶を持ってくるように命じた。すると、三成は大きな椀にぬるめのお茶を持ってきた。秀吉が飲み干しておかわりを要求すると、三成は次にやや小さめの椀に熱めのお茶を入れて持ってきた。そしてそれも飲み干すと3杯目には小さな椀に熱々のお茶を献じたのだ。何も言われていないのに、これだけ気配りのできることに感心した秀吉は、三成を召し抱えることにした。たかがお茶くみ、されどお茶くみである。

仕事は‟サイクル”ではなく“スパイラル”

 だが、いくら工夫して仕事をしていても、いつになっても上司の評価が実感できないこともあるだろう。その点について有馬氏は「評価にはタイムラグがあるもの」と話す。

「会社というのは、ある一定の期間で人材を評価したうえで次の仕事を決めてゆきます。ですから『一生懸命やっているのに全然評価してくれない。次の仕事を任せてくれない』と嘆いて即刻辞めてしまうのは時期尚早なのです。評価が決まるまでの自分の体内時計と、会社の時計の時間差があることを認識するべきでしょう。社内で評価が形になる前の1、2年で辞めてしまっては、転職できて次の職場で働き始めたとしても、再びゼロからのスタートになってしまいます。これは、とてももったいないと私は思います」(同)

 そしてもうひとつ、早期退職の要因となるのが、毎日同じ業務を繰り返すことで起こる倦怠感。学生時代に刺激的な毎日を送っていた人ほど、この気持ちに陥りやすいのではないか。しかし、実のところ社会人としての毎日は決して同じことの繰り返しではない。

「仕事を日々こなすということは“サイクルではなくスパイラル”なのです。仕事や生活は一見同じことを繰り返しているようにみえますが、実際はらせん状に少しずつ上へ上へと上がっているのです。コツコツと一生懸命仕事と向き合うことで、多くの人は何年後かには入社前に思い描いていたイメージ通りの仕事をこなせる人物に育っているはずです」(同)

 イチローは「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道」と語った。もちろんこのご時世、ブラック企業にエネルギーを搾取されることは避けなくてはならない。だが、最初から最後まで楽しい仕事などこの世には存在しないことを、社会人として4月から新たな一歩を踏み出す読者にはぜひ知っておいてもらいたい。

(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)

武松佑季/フリーライター

武松佑季/フリーライター

1985年、神奈川県秦野市生まれ。編集プロダクションを経てフリーランスに。インタビュー記事を中心に各メディアに寄稿。東京ヤクルトファン。サウナー見習い。

Twitter:@yk_takexxx

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