世界的には、ビールは下面発酵製法(ビール酵母は液面の下で活動)によってつくるラガー(Lager)ビールと、上面発酵製法(ビール酵母は液面の上で活動)によってつくるエール(Ale)の2つに分類される。ラガーは15世紀にドイツのミュンヘンで誕生した。夏場の気温が高すぎて仕込みがうまくいかず、冬場に仕込み、低温で「貯蔵=ラガー」したところ、高品質のビールができた。これがドイツからヨーロッパ、世界に広がった。
19世紀に冷蔵技術が開発され、チェコのピルゼンでラガーをつくるのと同様の下面発酵製造、すなわち低温(10℃前後)で1~2週間ほど発酵させて、醸造すると「淡く透き通った黄金色で、すっきりした味わいのピルスナー」が完成した。これが現在世界で主流の「ラガー=ピルスナー」タイプのビールである。
次にエールは冷蔵・冷却技術が完成する以前からつくられてきた上面発酵のビールである。エールはもともと寒冷でブドウ栽培に適さない地域で、ワイン代わりにつくられ発展してきた。常温(20℃前後)、短期間(4日間程度)で一気に発酵させる。ビール酵母は高温で活動するほど、「ワインのようなフルーティーな香りと豊かな味わいのビール」になるといわれる。上面発酵ビールは小規模な蒸留所で地域密着の多種多彩なビールをつくるところに特徴がある。
10年計画で新しいビール文化を創造
これより先の今年1月、SVBは限定新商品「みかんエール」のメディア向け試飲会を開いた。この試飲会にキリンHD社長の磯崎氏が飛び入り参加した。というのも磯崎氏の神奈川県小田原市の生家はみかん農家であり、「みかんエール」に使う温州みかんを提供したからだ。磯崎氏は「みかんエール」のイベントで乾杯の音頭を取ったが、その際、みかんづくりの苦労話にうんちくを傾けた後、こう付け加えた。
「若者のビール離れでビールが売れない、市場の縮小傾向に歯止めがかからないと、嘆いていても何も始まらない。キリンはSVBを通じ、誰もが飲みたいと思うような魅力的なビールを次々に開発・販売し、新しい市場をつくり出していきたい」
磯崎氏は日本のビール類市場が長期低落を続けてきたのは、ビール4社がピルスナータイプ(ビール市場の97%前後を占める)のビールで同質的な競争を続け、「消費者から飽きられて魅力を失ってきたことが大きい」と考えている。そんななかで急成長しているのがクラフトビール市場である。磯崎氏はSVBを通じて「みかんエール」のように「これまで飲んだこともないような魅力的なビール」を開発、提供し、ビール離れした若者の回帰を促し、女性など新しいビールファンを開拓していこうとしているのだ。