確実に利益を生む「ダム式経営」とは?
小田氏は、松下氏が推奨した「ダム式経営」に関するエピソードを紹介しつつ、松下氏の真意を解説する。
ある講演会で松下氏が「ダム式経営」について講演を行っていた。ダム式経営とは、経営に必要な人・モノ・金に余裕を持った経営をする方法である。
工場を例にとって説明しよう。工場で機械が100%動いていなければ利益が出ないようでは、何かがあればすぐに利益が出なくなる。そうではなく、80%稼働でも利益が出るようにしなければならない。人も同様だ。社員の80%が働けば利益が出るようにすると経営に余裕が出る。銀行から融資を受ける時にも、返済に余裕があるようにする。これがダム式経営である。
しかし、松下氏のダム式経営の講義を聞いていたひとりの経営者が、松下氏にこう言った。
「うちの会社は人も金も汲々としている。松下さんのような大企業はダム式経営ができるかもしれませんが、我々のような小さな会社がダム式経営をできるようにするにはどうすればいいのですか?」
松下氏はしばらく考えて、こう答えた。
「どうしたらダム式経営ができるようになるのか、方法論は私にもわからない。しかし、そうなりたいと強く思うことが重要だ」
実に狐につままれたような答えだが、ここにこそ松下氏の真骨頂があると小田氏は言う。
悩みは常にひとつ
「コップの中に水が半分あるとしましょう。ある人は『半分しかない』と思い、ある人は『半分もある』と考えます。事実は変わらないのに、とらえ方ひとつで見え方が変わるのです。松下氏がおっしゃったことは、まさにこのことです。
松下氏はいつも、『悩みはひとつしかない』と言われていました。人はいくつもの悩みを抱えているようで、実際は同時に複数の悩みを考えることはできず、一度にひとつのことしか悩んでいないのです。あることに悩んでいたとしても、別の悩みが新たに出てくればそれに気を取られてしまいます。つまり、人は常にひとつのことしか集中できないのです。
いつも頭から悩みが消えないという人は、悩みを打ち消すような強い思いを持っていないからです。松下氏は、強い思いを持つことで何事も成就できると説いていらっしゃいました。強い思いがあれば、悩みも消えていくのです。それを私は陽転思考と呼んでいます。
こうなりたいという強い思いを持てば、方法論は無限に出てきます。松下氏は、それが言いたかったのです」(小田氏)