社員が次々と介護離職…企業の存亡を揺るがす経営問題に 業務回らず職場混乱と人材流出
仮に裁判に発展した場合、具体的に業務上ではどんな場合に誰がどういった指示を出し、どのように動くのか、就労規則などに明文化しないと通用しない。企業には、ぜひとも危機意識を持っていただきたいと願う。
第四に、介護現場事情も刻々と変化している。過去の経験が今では通用しないことに気が付かない経営陣がいるとしたら、従業員は茨の道を強いられることもあるかもしれない。
経営陣が、自身の経験を従業員と共有することは非常に大切なことだが、ぜひ知っていただきたいのは、「認知症」と一括りにするが、物忘れなどの共通症状(=中核症状)はあるものの、非常に個人差が大きいことだ。それを、どれだけの経営者が理解していることだろう。
厳しい言い方をすれば、自身の経験はあくまでも一例に過ぎないことも自覚して、従業員の話をじっくり聞いて理解に努めることが必要だ。
第五は、国が認めた従業員の権利である介護休業や介護休暇など、仕事と介護の両立のための制度を知らなかったために起きる介護離職も、多分にあるように思える。
第六は、勤務先の就業規則や体制が整備されており、従業員も介護休業制度を知っていたにもかかわらず、介護離職してしまうケースも多いと感じる。特に男性社員は、勤務先に相談することもなく、辞表を提出するケースがなんと多いことか。
たとえば、一定規模の企業になると、従業員が介護休業制度を利用しようとするとき、次の査定評価を念頭に入れて躊躇する人が多いようだ。そのため、従業員は黙ってぎりぎりまで両立を図りながら働き、限界を感じると突如退職という選択をしてしまうこともあるようだ。
介護離職問題は、まだ先のことか?
団塊の世代が、75歳の後期高齢者に突入する「2025年問題」まで、あと9年に迫る。その子供たちは、企業の中核人材として大きな担い手になっているだろうが、「うちは20代の社員が多いから、介護問題はまだまだ先」と話す経営者もいる。
しかし、脅かすわけではないが、見方を変えてみると、新たな課題に直面するだろう。というのは、9年後に65歳になる人の現在の年齢は56歳。その子供たちとなると、16年時点で20代から30代前半に該当するのではないか。こう考えていけば、決して「20代の若い社員ばかりの会社だから」と安穏としていられる話ではなく、もはやそれほどの猶予は残されていないように思えてならない。