たとえば、「取次経由だと売れる新刊も歩戻しを取られる。入金もかなり先」というX社や、「支払いサイトが短くてありがたい」というY社の話がありました。確かに新刊委託時には歩戻しが取られますが、注文扱いの商品は歩戻しが付きません。さらに、アマゾンは入金が早い(60日後)という話も、通常であれば新刊委託の場合は7~8カ月目の支払いとなる点はその通りです。ただ、注文扱いの商品は取次から60日後には支払われます(30%の支払い保留などがある場合は70%分だけ)。注文扱いの商品は、アマゾンの条件と比べてそれほど悪いものではないのです。
アマゾンが言いたいのは「新刊委託の条件は取次よりも良いので、新刊から取次を通さずに全商品を直取引でやりましょう」ということなのです。取寄せ注文で販売機会をロスしているとか、アマゾン経由の注文が取次のキャパシティを超えたとか、取次よりも取引条件が良いという一連の話は、すべて既存の取次流通の不備・限界を指摘したものです。「今の出版流通の状況はひどい」「これではどんどん売上が下がってしまう」と出版社の危機感を煽るのです。
その一方で、アマゾンは取次の条件よりもちょっと上の数字を提示し、直取引で売上が伸びる事例をいくつも紹介し、最後にはアマゾンの直取引は有効と出版社に思わせる、それがこのセミナーの巧妙なところなのです。知り合いの小零細出版社は迷いもなく、アマゾンと直取引を開始しました。「1年後は正味が66%から60%になるかもしれない、それでもいいのか」と聞くと、「小零細出版社にとって、このタイミングを逃すと66%という話はもうこないだろう。確かに、1年後にそうなるおそれもあるが、書店での売上が落ちていく以上、ネット書店の売上を上げるしか選択肢はないのではないか」と話していました。
取次への不満
B氏 私も出版社アンケートの紹介を聞きました。本当かどうかはわかりませんが、直取引の条件よりも、返品や在庫管理など販売面でメリットを感じる出版社が多かったと思います。それは、現在の出版流通に抱く不満の裏返しと捉えることができます。以下はその声の一例です。
「在庫ステータスを素早く変更できる。在庫状況をリアルで確認できる」
「無駄な返品がない。販売状況が『見える化』されている。取次のあやふやな在庫管理には閉口していた」
「注文状況がタイムリーにわかって在庫を補充してもらっている。取次経由だと新刊を入れてもアマゾンでの販売が1カ月以上かかったこともあった」
「取次経由だと販売機会を逃すことが多い。e託を活用すると、取次や書店に頼らない営業戦略を構築できる。規模も小さく、書店への営業力も小さい場合はネット書店での販売は生命線。e託の利用は将来の生き残りに大きく寄与する」