2009年3月の株主総会で久美子氏は社長に就任したが、その年の年商は580億円だった。今回の売上下方修正に至るまで久美子社長の経営の下、大塚家具が600億円以上の年商を記録したことは一度もない。ちなみに同社の最高年間売上は03年の730億円だった。勝久氏が14年に久美子社長を更迭したのも理由のないことではなかったし、会社のトップもボトムも何年も低迷させている経営者はその資質を問われる。
匠大塚の脅威は始まっていない
大塚家具の経営権争いで一敗地にまみれた勝久氏は、匠大塚を昨年7月に創業した。大塚家具の元社員が50名以上も転職しているという。匠大塚での新事業開始の資金として勝久氏が大塚家具の株を一部売却したこと、久美子氏側の資産管理会社となったききょう企画との裁判で15億円を勝ち取ったことが報じられた。
しかし、大塚家具の今回の業績下方修正には、匠大塚の影響はまったく勘案する必要はない。匠大塚は4月22日に東京・日本橋デザインオフィスを第1号店として開店したが、これは設計者やデザイナーなどの業界プロを相手にした特殊な形態の店舗だ。B-to-CならぬB-to-P(Professional)というもので、大塚家具の顧客層とまったくぶつからない。
それよりも、埼玉県・春日部本店の6月オープンが発表されているので、こちらのほうが大塚家具にとってはよほど脅威だろう。というのは、この新店舗は床面積1.5万坪ほどもあり、駅を挟んだ大塚家具の店舗の3倍にもなるという。大塚家具春日部ショールームは喉に匕首を突きつけられたような気分だろう。
経営ごっこと株式ゲーム
経営者は結局、業績によって評価される。株主総会で支持を集められるか、ガバナンスでどう優位に立てるか。そんなことが過ぎてしまえば、成長と利益両面の冷徹な数字が突きつけられる。経営権の争奪合戦とそれに続いた久美子社長の戦略取り回しによって、大塚家具の企業価値は損なわれてきたと私は見る。
しかし、そんななかで利を得た人たちがいる。大塚家具の株価推移を見てみると興味深い。父娘の経営権争いが勃発する15年春までは1000円前後で推移していた同社の株価は、父娘の対決となった株主総会の頃に2500円に急騰し、久美子社長が「お詫びセール」を展開した4月、5月は2000円ほどで推移した。父娘対決で久美子社長側について大いにこの祭りを煽ったともいえる海外ファンドは、その持ち株をこの時期に売り抜けたと見られる。というのは、財務省への大株主報告から外れたからだ。