私も孫氏の続投を大いに歓迎する。同氏は創業時から「豆腐を1丁、2丁と数えるように売り上げを1兆、2兆と数える会社にする」と豪語してきた経営者だ。日本で20世紀における最高の大経営者は故・松下幸之助氏だったが、孫氏は21世紀における最大の創業経営者の道を歩んでいる。
カリスマ経営者には後継ぎは育てられない
孫氏がグループのCEO(最高経営責任者)として全体を見て、海外部門をアローラ氏、国内部門を宮内謙氏がそれぞれ副社長として受け持つことが企業価値を増大させる格好の布陣だったろうが、今となっては「ないものねだり」となってしまった。アローラ氏は、7月1日以降は顧問としてソフトバンクグループに関与するという。しかし、より大きな権限と責任を求めての副社長退任なので、外にポジションを探すことになる。
そこで、ソフトバンクグループで後継経営者の育成はどうするのか、という命題が発生してしまった。私は「そんなことは無理だったのだ」と指摘したい。同社には以前からソフトバンクユニバーシティがあり、社内だけでなく社外からも参加を認めている。何百人もの参加者を輩出し、当初は孫氏の後継経営者の発掘、あるいは教育機関ともいわれてきたが、結局外部から唐突にアローラ氏をスカウトした。
柳井氏にしても、09年にFR-MIC(ファーストリテイリング・マネジメント・アンド・イノベーション・センター)を立ち上げて後継経営者を育成し始めたと思ったら、自らの65歳引退を公言していたのを13年に至り撤回して、現在67歳で陣頭指揮を執っている。永守氏に至っては常々「死ぬまで経営に関与するのが創業者の責任だ」と覚悟を示している。
カリスマの後継はそのときの成り行き
FR-MICや星野リゾートが展開している幹部研修プログラム『麓村塾』にしても、後継経営者の発掘あるいは教育を標榜している社内プログラムは珍しくない。しかし、そんなことをしても実はカリスマ経営者の2代目をつくることは不可能だ。ほとんど再現できないような人材だからこそカリスマ経営者であり、同じような人材がもうひとり同じ組織から発見できると期待してはならない。従業員をいくら教育しても、せいぜい幹部教育として実を上げられるのが限界である。