そんな限界をカリスマ経営者自身が実はよく理解している。あるいは直感している。そして逆説的にいえば、そんなことが難しいと思うからこそ、後継育成プログラムなどを整備したがっているともいえる。
カリスマ経営者の後継育成、指名プロセスでうまくいったのが、米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチだろう。ウェルチは退任前の数年間にわたって4名の後継者候補を公示して、その4人を徹底的に競わせた。その結果、ジェフ・イメルト現会長兼CEOが勝ち残り、後継となり現在に至っている。そして就任以来同社の業績を伸張させてきている。
しかし、ウェルチの場合、孫社長などと決定的に異なるのは、創業はもちろん、オーナー社長でもなかったことだろう。新卒からGEに入社した純粋な従業員経営者だった。いずれは「バトンを渡す」という覚悟、風土がGEにはあったので虚心に後継社長選びのプロセスを踏むことができたのではないか。
後継経営者を育てられないのがカリスマ経営者の悩みだったとしたら、カリスマが去ってしまったらどうしたらいいのか。それは、そのときの成り行きで決めるしかないのだ。
今年になって退陣したカリスマ経営者としては、鈴木敏文セブン&アイ・ホールディングス(HD)前会長が記憶に新しい。鈴木氏の場合は、後継経営者候補として浮上してきた井阪隆一氏を排除しようとしての蹉跌となった。
鈴木氏は、あまりに偉大なカリスマ経営者となったので、オーナーや創業経営者のような錯覚を持ってしまったのではないだろうか。つまり「矩(のり)を超えてしまった」ということである。
井阪隆一セブン&アイHD新社長に対して総合スーパー(GMS)事業での経営経験がないと指摘する向きもあるが、GMS事業とコンビニエンスストア事業の両方で経営実績を持ち、かつスカウト可能な人材がいるとでもいうのか。「カリスマ鈴木氏」の幻影を求めることは空しいことだ。
いずれにせよ、孫氏が今、58歳にして事業意欲の再燃を自覚して続投宣言をしたことはまことに喜ばしい。ソフトバンクグループどころか、企業の枠を超えてどこまで羽ばたいていくのか。ぜひ見届けたいものだ。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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