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桶谷 功「インサイト思考 ~人の気持ちをひもとくマーケティング」

カロリーメイト、製品は変わらないのに7年前から売上が伸び続けている理由

文=桶谷功/株式会社インサイト代表取締役

カロリーメイト、製品は変わらないのに7年前から売上が伸び続けている理由の画像1

大塚製薬「カロリーメイト」(サイト「Amazon」より)

 栄養補助食品のカテゴリーをつくりあげたカロリーメイト。誰もが名前を知っていて、一度くらいは食べたことがあるブランドではないでしょうか。

 でも、常用している人は多くないでしょう。なんとなく、「あの手の食べ物」は、時間のないときに食べるイメージがありませんか。「寝坊したときに、あわてて」とか、「職場で忙しくてランチに行けないとき、デスクで仕事をしながら食べる」といったイメージです。

 しかし、この数年、カロリーメイトは「忙しいとき、あわてて」ではなく、「ゆっくり」食べるシーンを打ち出して、売り上げを好調に伸ばしているのです。いったい、どういう消費者の気持ちをとらえて、売り上げを伸ばしているのか。その秘密に迫ってみましょう。

「考えつづける人」のカロリーメイトCM

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『戦略インサイト 新しい市場を切り拓く最強のマーケティング』(桶谷功/ダイヤモンド社)

 カロリーメイトのブランド・サイトでも紹介されていますが、現在のCMには、音楽の世界でアイデアを追い求めつづける、サカナクションの山口一郎さんが出演しています。そして、そのCMのコピーは、「考えつづける人にとって、栄養は味方になる。満腹感は敵になる。」「KEEP THINKING(考えつづけろ)」となっています。

 また、カロリーメイトは、外国人初の女流棋士カロリーナさんを応援するショートムービーをサイト上で公開しています。ここでも、「考える人を応援するカロリーメイト」とうたっています。

 ここから、どういう意図がくみ取れるでしょうか。なぜ、「考える人が、考えごとをしながら、ゆっくり食べる」ことを打ち出しているのでしょうか。

 カロリーメイトは、かつて「短時間で簡単に」栄養が摂れることをアピールしていました。しかし、それはややもすると、時間がないときに「仕方なく」食べるもの、というイメージにつながりがちです。「本当は、朝ごはんを食べたいけど、仕方なく」とか、「本当は、外でランチしたいけど、仕方ない……」といったイメージです。

 でも、こういった「消極的な理由」で食べられている限り、ごくたまにしか食べてもらえないでしょう。また、あまり忙しくない職場に異動になったとたん、食べなくなってしまいます。カロリーメイトを食べたことはあるけど、たまにしか食べない人が多いのは、積極的に望んで食べる理由がなかったからではないでしょうか。

 また、急いで栄養を摂るなら、「ぼそぼそ」したカロリーメイトより、「10秒チャージ」とアピールしているゼリータイプの「in ゼリー」のほうに分がありそうです。「in ゼリー」は、錦織選手をCMに起用するなどスポーツのイメージが強いので、そのイメージとも差別化したほうが良さそうです(カロリーメイトにも、ゼリータイプや缶入りドリンクタイプがありますが、あくまで固形タイプが中心です)。

 その一方で、カロリーメイトは固形物なので、「inゼリー」よりお腹にたまりますし、「噛む」ので食べた感じもある。かといって、満腹になってだらけてしまうわけでもない。この適度な腹持ち感こそが、「考えつづける人の味方」になれるカロリーメイトならではの長所なのです。

カロリーメイトのイメージは、どう変わるか?

 ばたばたしながら「仕方なく食べる」より、「考えごとをするときに食べる」ほうが、食べる理由が積極的なものになると思いませんか。また、新入社員ならいざ知らず、ばたばたしているより、落ち着いて考えて仕事をしている姿のほうが、“デキる”人というユーザーイメージにもつながるでしょう。

 このように、食べる理由がはっきりして、生活の中に組み込まれると、計画的に買って習慣的に食べてもらえるようになります。これまでの、「時間のないときだけ、たまに買う」のと比べて、購入頻度が格段に上がりそうではないでしょうか。

 カロリーメイトは、今まで狙ってきた人やシーンを、大きく変えました。これまでは、「忙しく動き回っていた人」が、「時間のないとき」に、「小腹満たしに仕方なく」食べていた。それを、どう変えたのか。「考える人」が、「仕事や勉強で、集中を途切らせたくないとき」に、栄養と適度な腹持ちで「集中しつづけるために」食べてもらうようにしたのです。

受験生の「考える」も応援する、カロリーメイト

 カロリーメイトは、受験生の「考える」も応援しています。2012~13年受験シーズンの、満島ひかりさんが「ファイト!」を熱唱する応援に始まり、毎年恒例の風物詩のように、受験シーズンには動画を公開。サイトでも受験生を応援する取り組みを行っています。2019~20年は、世界が注目するアーティストYOSHIを起用。「My Way」を熱唱しながら、「見てろよ。」と受験生の気持ちを代弁しています。

 カロリーメイトは、2012年まで売り上げが下がってきていましたが、2013年以降、「考える」とともに売り上げを反転させ、その後も順調に売り上げを伸ばしています。定番ブランドを見事に復活させたのです。

 カロリーメイトの場合、製品自体は変わっていません。しかし、「仕事や勉強で、集中しているときを途切らせたくない」という、消費者のインサイト(本人も気付いていないような感情やニーズ)をとらえることで、大きく売り上げを伸ばしました。

 また、カロリーメイトの最大の製品特徴は「栄養バランス」ですが、消費者が自分と関係ないと思えば、いくら大きな声で言っても届きません。でも、考える社会人や受験生のニーズをとらえれば、栄養バランスが一気に「自分ゴト」化し、魅力的になるのです。

(文=桶谷功/株式会社インサイト代表取締役)

桶谷功/株式会社インサイト代表取締役

桶谷功/株式会社インサイト代表取締役

大日本印刷(株)を経て、世界最大級の広告代理店 J.ウォルター・トンプソン・ジャパン(株)戦略プランニング局 執行役員。ハーゲンダッツのブランド育成などに貢献。2005年、著書「インサイト」(ダイヤモンド社)で日本に初めてインサイトの考え方を体系的に紹介。2010年に独立し、(株)インサイト設立。マーケティング全般のコンサルティングを行う。コンサルティング実績は、食品・飲料・日用品・クルマ・医薬品・百貨店・ファッションEC・C2C・テック系サービスと多岐にわたる。インド・中国などでのインサイト探索・戦略開発や、イノベーション開発、独自メソッドの導入・教育も行う。他の著作に「インサイト実践トレーニング」「戦略インサイト」(ともにダイヤモンド社)など。企業・協会等での講演やセミナー多数。日本広告学会会員。グロービス経営大学院MBA講師。

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