こうした説明はパネルなどに記載して表すこともできますが、その場合にはどうしてもチープ感が出てしまいます。そうしたチープ感を出さないためにも、販売員が対話によって直接説明することは重要なのだと思います。匠大塚で扱う高級家具・インテリアを売るには、販売員による接客が不可欠だと実感しました。
幅広い価格帯の大塚家具
匠大塚を後にして、同じく春日部市内にある大塚家具へと足を運びました。1階から4階まで家具・インテリアが展示されています。価格帯は匠大塚と比べて全体的に低くなっています。数十万円の家具もありますが、数万円の製品も多く取り揃えています。
匠大塚と比べて、大塚家具では商品を所狭しと展示しています。高級感を演出するというよりも、陳列量を多くしようとしていることが伺えます。販売員は積極的に接客するというよりは、聞かれたら答えるというスタンスでした。
こうして匠大塚と大塚家具を比べてみると、両者の販売戦略は大きく異なることがわかります。どちらの戦略が正しいのか、どちらが戦いを制するのかは、断言しにくいところです。その判断を下すのは消費者です。筆者が訪れた日の客の入りは、匠大塚のほうが圧倒的に多かったのですが、それはオープン直後という側面が強くあります。本当の戦いはこれからでしょう。
匠大塚は、あえて大塚家具がある春日部に出店したと思われます。春日部は大塚家具創業の地でもあるため、再出発の地とする意図もあったのでしょうが、勝久氏は親子の直接対決を前面に押し出して話題性を喚起していると考えることもできます。
匠大塚は高級家具・インテリアを扱うため、どうしても広い売り場が必要になります。そうなると、都市部で出店することは難しく、現段階では郊外での展開にならざるをえません。しかし、郊外では都市部と比べて集客が難しくなります。集客が難しいところで商売を成り立たせるには話題性が不可欠です。家具・インテリアという同じジャンルでの勝負になりますが、販売の価格帯が異なるため直接的な競合にはならないという計算も働いているのでしょう。
また、両者で顧客を奪い合うことは完全には避けられませんが、それ以上に「春日部には家具・インテリアの2大巨頭がある」という消費者の認知形成による集客効果が上回るという思惑があるのでしょう。
匠大塚は巧みな出店戦略を行っているといえます。しかし、これは大塚家具にとって悪い話ではありません。直接の勝負で負けなければ、大塚家具にも顧客が流れてくる可能性があるからです。切磋琢磨することで双方の品質の向上につながり、業界全体が盛り上がる可能性もあるでしょう。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。