ポケモンGOの大ヒットは、むしろ任天堂の主力・専用ゲーム機事業をさらに衰退させる
というのは、ポケモンGOを開発販売しているのはグーグルから独立した米ベンチャー、ナイアンティックという会社で、任天堂はそこの株式を部分的に所有している。ポケモンGOの販売にかかわる収益をどう分配するかについて、ナイアンティックは明らかにしていない。任天堂が所有する株式持分についても明らかにしていないのだ。
ちなみに、任天堂はポケモン・キャラクターを管理する株式会社ポケモンについても32%の株式を所有しているにすぎない。
ツバメ1羽が任天堂に春を告げたのか
ポケモンGOが任天堂の業績を大幅に押し上げる、というのは少なくとも売上的には難しいことだろう。
というのは、任天堂は2009年に連結で年商2兆円近くの売上を計上した、大きすぎる企業だからだ。直近の16年3月期でも5045億円もの年商を有している。
専用ゲーム機という分野での勝者でありジャイアントとなってしまった同社は、スマホゲーム時代がやってきていたにもかかわらず、その分野への対応を怠っていた。名経営者といわれた故・岩田聡社長も「スマートデバイスには物理的なボタンがない。『スーパーマリオ』などを楽しく遊べない」(15年1月18日の会見)としていた。
私は昨年2月、本連載記事『任天堂、もう沈みゆくしか道はない スマホゲーム制覇戦略を採用できない構造的欠陥』で同社の立場に立った場合のスマホゲームへの対応の難しさを「イノベーションのジレンマ」セオリーにより解説した。同記事では「任天堂は、スマホゲームに参入できる、そして制覇できるすべての経営資源を有しているにもかかわらず、なぜ参入しないのか」と批判する一方、次のように対応策も提示した。
「このような構造の中で、任天堂が選択できる企業戦略としてはM&Aである。同社の財務諸表を見ると、現金と有価証券でなんと約9000億円も保有している。これを有効活用して、世界中のゲーム開発会社や関連するIT企業を早期に10社以上買収することだ。そして同社に統合することなく、それらの会社を活性化させてローエンド・セグメントを席巻する。人事交流は行わないほうがいい。任天堂本社の現在の『持続的イノベーション』のモメンタム(惰性)が、それらの『破壊的イノベーション』を担当すべき企業の風土を阻害してしまうからだ」
ここでいう「ローエンド・セグメント」というのは、まさにスマホゲームのことだ。同記事掲載後に任天堂はスマホゲーム開発へ方針を転換して、提言した通りの道をたどってポケモンGOの大ヒットにつながった。