その場で主要な業績数値の変化や、改革の取り組み状況を聞かせてもらったのですが、本気で改革しようとしているという姿勢が伝わってきて、成果も少しずつ現われ始めていました。「ここまで徹底した取り組みであれば、その内容を広く知ってもらうことで、同じような労働環境で困っている他社の参考にもなるはず」と考えました。
また、「批判していた問題が解消されたのであれば、その事実まできちんと伝えることが、批判していた者としての責任だ」という考えもあり、お引き受けすることにしました。
ただし、条件がありました。「私はあくまで第三者のジャーナリストとしての立場で、客観的に見て思った通りのことを書きます」と。御社にとって不都合なこと、嫌なこと、昔の出来事の掘り返しなども書くかもしれませんよと。原稿になってから、「そういうことは書かないでほしい」といった要望は一切受け容れられない、ということを約束頂きました。
――事前の原稿チェックを認めなかったのですね。
新田 原稿でチェック頂くのは、細かい数字など事実関係の確認だけで、私の視点や論調、表現のニュアンスに至るまで、一切の変更や修正はご容赦頂きました。その条件で、改革の内容と成果、それに対する評価を書くことになったのです。
――ワタミの広報支援をしたわけですね。
新田 そうです。ワタミが自ら発信した情報だと、どんなに良いものでもアンチが批判する材料になってしまう。そこで、同じアンチな立場の者から発信することによって、少しでも世間に広く伝えようということです。約1年半をかけて取材をして、それを一挙にまとめたのが本書です。取材を進めていくなかで、インターネット上などでポジティブな情報を発信する機会は充分にあったのですが、ワタミはあくまで「書籍」という形で発信することを望んだので、本書で一挙出ししました。
――取材では、どのぐらいの人に会いましたか?
新田 取材にはワタミの全面協力をいただく前提でスタートしたので、証拠となるデータの提出、ネガティブな意見も含めて証言してくれる社員の紹介を依頼しました。役員、エリアマネージャー、店長、フランチャイズオーナー、結婚・出産を経て復職した女性社員、身体障害をお持ちの方、内定者の学生などを紹介していただき、さらに非公式ルートとして私のネットワークで多くの関係者を取材しました。ワタミからの紹介、ネットワーク、過去に取材した人を合わせると、100人以上の関係者に取材したことになります。