スピードが勝負で来店客数も多いランチなので、夜よりオペレーションを簡略化したとしても、夜と同じくらいのスタッフ配置は必要になります。スタッフの人件費は、夜より時給100円くらい安いかもしれませんが、そう大きくは変わりません。
つまり、このケースの人件費部分は、ランチは夜の2倍、効率が悪いといえます。ランチにおける人件費率は30%以内に収まらないことが多く、残利益10%部分を削っていくことになります。さらには残利益分を超えてしまうこともあります。ここが、ランチは儲からないといわれるゆえんです。
なぜランチをやるのか?
では、なぜランチをやるのでしょう。それは、「固定費的な人件費」と「固定費としての家賃」をまかなうためといえます。固定費的な人件費というのは「月給制スタッフ=社員」の分です。本来は、夜の営業時間を長くしたりして、増えた売上で社員の固定給をまかないたいところですが、それよりも毎日確実にニーズがあるランチの売上のほうが手堅い場合が多いです。
ランチの売上よりも夜の営業時間を長くすることで得られる売上のほうが多いなら、そちらを選びたいと思っている経営者は多いはずですが、実際は客単価が低いながらもランチの売上のほうが手堅いことが多く、夜の売上でまかなえない固定費的な人件費の分をランチ営業によってまかなっています。
ちなみに、「ランチは夜の宣伝のため」といっているお店が多いですが、ランチのお客さんは「結局ランチのお客さんである=夜はあまり来ない」ことに、多くの店舗経営者は気づいています。しかし、ランチがきっかけで夜もそのお店を使ったり、宴会時期に幹事さんが会場探しのためにランチで使うこともありますが、近隣住民や近隣オフィスの方々がランチに来るのですから、夜のお客さんとしての潜在ニーズはまだまだあります。ランチは夜の宣伝のためなら、宣伝を意識したメニューづくりや、ランチと夜の差別化、夜の魅力の提案、ランチから夜への誘導仕掛けなど、意識的かつ具体的な仕掛けづくりまでやると、本当に「ランチは夜の宣伝のため」になるでしょう。
ランチで儲かるお店
最後に、ランチで儲かるお店もあります。それは「客単価が昼夜同じくらいのお店」です。客単価の低い・高いは関係ありません。どんぶりもののお店でも高級店でも、客単価が昼夜同じくらいなら、人件費率はそう変わりません。最初から設定されたビジネスモデルに歪みが生じないので、ランチでも儲かります。
そのほかにも、ランチにうまみを感じるお店のタイプがあります、「自分の家の1階で、夫婦+短時間のアルバイトでやっているお店」です。準備や片づけまで正式に時給計算すると、経営者の時給は外でアルバイトしている場合より少ないケースもありますが、固定費である家賃もかからず、アルバイトへの支払以外は変動費なのでリスクは少なく、キャッシュも発生するので、日々のニーズがあり人の流れが多いランチタイムは稼ぎ時となります。
「おいしいお店だからランチタイムもやってくれないかな~」というお店が周りにあったとしても、このようにお店としてはスタッフの拘束時間を長くしてしまいかねないランチタイムは、「できれば避けたい」というのが本音でしょう。そうはいっても、人間にとって体と心のエネルギー充電に重要なランチタイムですから、がんばっているお店のおいしいランチを存分に楽しんでみてください。
(文=江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部代表)