日本国内では大手キャリアの冬モデルにも影響が及んだ。発売見送りを明らかにしたNTTドコモに加え、KDDIも冬モデルとしてNote7の発売準備を進めてきたとされる。夏モデルのGalaxy S7 edgeの販売は好調としているものの、国内でようやく人気が上向いてきたGalaxyブランドのイメージダウンは免れない。
各国の航空会社は、機内アナウンスでNote7の電源を切るよう求めてきた。さらに10月には米国で機内への持ち込み自体が全面的に禁止され、日本の国土交通省もこれに準ずる措置をとった。これにより海外旅行からNote7を持ち帰れなくなったユーザーが続出、サムスンは韓国や米国などの空港に専用カウンターを設け、Note7の交換に応じるという。
また、サムスンが展開する交換・返金プログラムでは、Note7本体だけでなくアクセサリーも対象になる。さらにNote7に向けて部品や材料を供給する70社以上のメーカーに対しても、部品の在庫などについて全額補償することを発表している。
一連の問題でサムスンが被る損失の全体像も見えてきた。サムスンは16年度第3四半期の営業利益見通しを23億ドル(1ドル104円換算で2400億円)引き下げたが、Note7に関する損失は50億ドル(同5200億円)以上、ブランド全体での機会損失は100億ドル(同1兆400億円)相当との試算も出ている。
ここまで大きな機会損失が見込まれる理由は、世界のスマホ市場でサムスンが依然としてシェア1位をキープしているためだ。1万円台の格安機からハイエンドまで、サムスンはあらゆる価格帯にラインアップを展開する。また、テレビや生活家電などの分野でもサムスンはトップシェアを占めており、ブランド価値の毀損は影響範囲が大きい。
他のスマホメーカーも楽観してはいられない。たしかにNote7ユーザーの一部は米アップル製iPhone 7 Plusなど他社製品に乗り換えると予想されている。だが、最近ではバッテリーの急速充電がブームになっており、いかに短時間で充電するか各社がしのぎを削っているのだ。
スマホ市場でシェア1位のサムスンには、スマホの設計や製造にトップクラスのノウハウがあるとみる関係者は多い。つまり先頭を走るサムスンに起きた問題に、他のメーカーも遅かれ早かれ直面する可能性がある。サムスンには多少時間をかけてでも、問題の原因を正確に特定し、公表することを求めたい。
(文=山口健太/ITジャーナリスト)