日本で売上激減のあの伝統品、なぜ海外でバカ売れ?小さな一金属企業、なぜ海外市場開拓驀進中?
しかし、瀬尾製作所を取り巻く環境に注目すると、人口減少やライフスタイルの変化の影響を受け、茶道具や仏具などの国内市場は縮小し、しかも品質は劣るものの類似する部品や商品が、アジアを中心とする海外メーカーから輸入され始めた。その結果、顧客となるメーカーから厳しい価格要求を突きつけられるような状況になった。こうしたなかで2008年、次期社長となる瀬尾良輔氏(当時28歳)が東京での会社勤めを終え、家業を継ぎ、新たな取り組みに着手し始めた。
雨どいの海外販売
雨どいは奈良時代にはすでに設置されており、以後、長きにわたり日本各地で使用されてきた。瀬尾製作所では、大手ハウスメーカーを中心に雨どいのOEM供給を行ってきたが、住宅様式の変化に伴い、大手メーカーの住宅モデルから雨どいは外されるようになり、売り上げは低下した。
ところが、事態を一転させる出来事が起きた。オーストラリアから雨どいに関する問い合わせが入ったのだ。当時、自社ホームページにおいて英語の記述等は一切なかったものの、写真を見て英語で問い合わせてきた。このとき良輔氏は、海外市場に商機があるのではないかと考え始め英語のページをつくり、海外市場を意識したデザインの商品を開発、2010年頃より本格的に海外市場への販売をスタートさせた。
すると、おもいもよらないようなところから注文が殺到した。台湾の建築家が、日本統治時代の建物をリノベーションするために購入したり、日本風の住宅が流行している韓国で、雨どいも併せて買われたりしている。
また、アメリカでは進駐軍が雨どいを持ち帰り、その後、徐々に広まり、現在では日本の10~20倍程度の市場規模になっている。アメリカ市場ではインド産などの安価な雨どいが数多く流通しているが、こだわりを持つユーザーから日本への注文は少なくないようである。
日本と海外市場の相違に注目すると、国内からは工務店をはじめプロユーザーからの注文が8割、一般消費者からは2割であるのに対して、DIY(自分でモノをつくること)が盛んな欧米からの注文は一般消費者の割合が日本よりもかなり高い。海外市場における消費者の商品へのニーズに関しては、装飾を凝らした「いかにも日本的」といった感じのデザインよりも、国内市場同様、シンプルなデザインの商品に人気が集まっている。
今では瀬尾製作所の雨どいは、17%を海外で稼ぎ、全社売り上げの3割を占めるまでに成長してきている。雨どいの海外市場への販売は、「新規の市場×既存の製品」の市場開拓ととらえられるだろう。