「今回の高橋さんの件は、遺族側が記者会見を行ったのでメディアが取り上げて、社会的に大きな問題となった。しかし、ただ労災認定されただけでは、一般の人はその企業のことを知ることはない。
企業名を公表すれば、就職活動をする学生にとっては企業選定にも役立つ。なお、企業の汚名返上の措置として、法違反是正への取り組みや過労死防止策を報告させ、公表すれば公平性が保たれる」(同)
しかしながら、NPO法人が過労死企業の企業名を公表するよう情報開示請求したところ国が不開示としたため、裁判で争われたことがあった。2012年の大阪高等裁判所では、「不開示は適法」との原告敗訴の判決が出ている。経済団体の反発は予想されるところだが、国もまた情報開示に後ろ向きである。
電通、東京五輪事業から撤退の危機も?
次に、法違反をしたり過労死社員を出したりした企業については、公的事業(国や地方公共団体)への入札の参加を一定期間禁止するなどの、いわゆる公契約法・公契約条例の制定が有効だ。
「税金を使って行われる事業を、法違反をしている企業に請け負わせるのはバカげている。この規制は、都市部・地方を問わず、下手な助成金を出すよりもよほど効果がある」(同)
仮にこの制裁が制度化されれば、電通は20年の東京オリンピック関連事業を一切請け負うことができなくなる。もはや、長時間労働を許してしまう日本社会の文化を変えるには、このくらいのショック療法が必要なのではないか。
そこで、当編集部から電通広報部に問い合わせたところ、以下のような回答を得た。
――高橋まつりさんの過労自死について、現時点で御社として認識されている問題点や見解はどのようなものでしょうか。
「ご遺族と協議中のため、回答は控えさせていただきます」
――91年の「電通事件」でも過労自死が発生しており、3年前に過労死した男性社員も労災認定されていますが、その間、御社の対策や姿勢はどのようなものだったのでしょうか。また、なぜ繰り返されてしまったとお考えでしょうか。
「現在、外部法律事務所による調査・検証を行っているところです」
――社員の長時間労働の是正や健康面の確保について、今後の対応や御社の姿勢についてお聞かせください。
「当社は、当社で働く社員が健全な心身を保ち続け、一人ひとりの社員が自己の成長を実現・実感できる労働環境づくりを目指し、労働環境の改善と長時間残業の撲滅の取り組みをさらに加速させるため、11月1日付で『電通労働環境改革本部』を発足させております」
新たに発足した「電通労働環境改革本部」によって、「労働環境の改善」と「長時間残業の撲滅」がどこまで進むのか、注視したいところだ。
(文=横山渉/ジャーナリスト)