韓国のサムスン電子(以下、サムスン)は、新型スマートフォン「ギャラクシーノート7」でバッテリー異常による爆発が相次ぎ、約250万台のリコールに追い込まれました。問題発生時は一時生産中止の対応がなされましたが、その後、生産終了となりました。世界首位メーカーの最上位機種がわずか2カ月で生産終了になるとは異常事態ですが、これに呼応して、一部ではサムスンの経営危機さえも囁かれる事態となりました。
そこで筆者は、サムスンの最近の決算書を取り寄せて分析しました。結論からいうと、「目下、(短期的な意味での)サムスンの経営危機の特徴は見当たらない」ということになります。以下、具体的に説明します。
特徴1:分厚い自己資本
以下に掲げたのは、サムスンの2016年9月30日現在における貸借対照表データ(簡易版)です。
これをみると、総資産が2,444,715億ウォン、負債が649,351億ウォン、株主資本が1,795,364億ウォンとなります。韓国ウォンだとわかりづらいので、日本円に換算したデータを示すと、1ウォン1.09円(以下、同)として、以下のようになります。
・総資産:約224兆2858億円
・負債:約59兆5735億円
・株主資本:約164兆7123億円
いわゆる株主資本比率は73.4%と極めて分厚く、負債が小さいことがわかります。それだけでなく、この貸借対照表をみると、預貯金の残高が83兆681億ウォン(約76兆2093億円)もあって、負債の総額である64兆9351億ウォン(約59兆5735億円)を大幅に上回っています。預貯金だけで負債の総額を上回るほどの金持ち企業というのも世界的にみて少ないのです。
こういう企業において経営上のミスが生じたとしても、(少なくとも短期的には)経営危機は生じません。それほどまでに、サムスンの財務基盤は安定しています。
特徴2:収益力には陰りあり
いっぽう、ROE(株主資本利益率:株主から調達した資本を元に、どれだけ効率的に利益を生み出しているかを示す指標)は、以下の通り推移しており、株主からみた収益力は悪化しています。これまで13%で推移していたROEが10%に低下していますので、株価もこれにつられて下落する要因が生じています。
また、下記の損益計算書にみられるように、業績も下落しています。