正社員として雇用する場合は「高度人材」(専門知識を持つ経営者・技術者など)になりますが、「高度」を名乗る割には大した給料を支払うわけではありません。欧米で高度人材として扱われる人は、それこそ年収が億円単位に達しています。しかし日本では、高度人材は単なる正社員です。日本側が求めている高度人材は海外から日本に入ってきません。
かなり低い資格取得率
――現状で、技能実習制度で来日している外国人は、今年6月時点で74職種で21万人、EPAでは看護と介護を合わせて3000人程度しか来日していません。人手不足対策とはいえ、到底不足分を補える数字ではありません。
丹野 厚生労働省はEPAについて失敗だったと思っているでしょう。EPAでインドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国の人材を受け入れても、日本で看護師資格と介護福祉士資格を取らなければ長期間働けないのですが、国家試験のハードルが高すぎるのです。日本の4年制大学を卒業した日本人ですら介護福祉士の合格率が50%程度なのに、それを外国人に要求しても通るわけがありません。
――EPA人材の介護福祉士国家試験の合格率は、2015年度に初めて50%を超えたと発表されました。ただ、この数字は受験者に対する合格率なので、来日しても受験しない人を含めると、資格取得率はかなり低くなります。
丹野 そうですね。看護でも介護でも日常で使わない専門用語が多いのですが、こうした用語の知識よりも、本来は実技にウエイトを置いたテストで適性を見極めるべきなのに、筆記試験によって日本人と同じ基準で合否を決めるので、外国人は合格しにくいのです。
例えばEPAの初期の頃、インドネシア人では、日本で言えば東京大学に相当するインドネシア国立大学の卒業生も来日しましたが、その人たちですら合格率を上げることができませんでした。社会の上層階層に属する人たちが受験しても受からないことがわかってしまうと、外国人は日本に集まってきません。
わざわざ外国で働くからには見通しが必要です。看護師の場合も介護福祉士の場合も、日本の国家試験の受験資格を得るには、日本で2~3年の実務経験が必要になります。人生のなかで2~3年は大きいでしょう。その大きな決断に対して、あまりにも合格の確率が低いと人は集まりません。