ましてや当たり前のことですが、優秀な人ほど見通しを計算しますので、優秀な人が集まらなくなってしまいます。日本人の合格者とは基準がずれてしまいますが、一定の合格率を担保するようにして、合格した後に日本語力などを訓練するというように発想を変えて受け入れないと、制度をつくっても利用されないままになってしまうでしょう。
御礼奉公を強いる
――EPAで介護人材を受け入れる場合、国家資格合格までは日本人と同一賃金で、労働時間が週28時間に限定されて、あとの時間は受験勉強に充てることになっていますね。介護事業者にとっては、コストパフォーマンスに見合わない使い勝手の悪い制度で、現状では体力のある事業者でないと、なかなか受け入れられないという問題もあります。
丹野 医療法人を母体とするような社会福祉法人などでないと、たぶん受け入れは難しいでしょう。看護師の場合も相当なコストが発生します。看護師国家試験の合格率は数年間10%を下回っていましたが、外国人を受け入れた法人は給料を払って、寮を提供して、受験勉強の費用も負担すると、1人につき年間700万円ぐらいかかってしまいます。
受け入れた人が全員合格すれば1人当たり700万円のコストで済みますが、かりに3人を受け入れて合格者が1人なら2100万円のコストになってしまいます。看護師国家資格を受験するには、インドネシア人とベトナム人は日本で2年、フィリピン人は日本で3年の実務経験が条件になるので、受け入れた医療法人は1人を合格させるためにゆうに5000万円、場合によっては1億円くらいのコストがかかってしまいます。
そうすると、そこまでコストをかけた人が有資格者になった後に他の病院に転職してしまったら困るので、債務返済労働のようなかたちで縛りつけておかざるを得なくなります。
――御礼奉公を強いるわけですね。
丹野 今のEPAの受け入れのあり方では、本人にとっては合格した後に自由な労働力になれるわけではなく、不自由な状況に置かれてしまいます。受け入れた医療法人も、有資格者を縛りたくて縛っているのではありません。そこまでコストをかけた以上は元を取らなければなりません。EPAは誰もハッピーにならず、誰もが不幸になってしまう仕組みです。
かりに安い労働力として雇って、資格を取らせないまま一定の年数働いてもらって帰国させるのなら、今の仕組みのままでもよいでしょう。しかし、資格を取って日本で長く働いてもらうのなら、資格要件を緩くして、人が集まってくるインセンティブと計画性をもった仕組みにして受け入れを図ることが必要です。
(構成=小野貴史/経済ジャーナリスト)