実際、こうした政策がイノベーションにつながるかは不透明だ。それでも、経済全体が良好ななかで大手企業が米国での雇用や投資を増やすのであれば、景気先行きへの期待は一段と高まるだろう。金融市場に浸透してきた短期的なトランプノミクスへの期待は、徐々に、企業、家計の心理に波及しやすくなっている。その結果、雇用の質の改善も進む可能性がある。
トランプノミクスへの警戒強めるFRB
すでに、連邦準備理事会(FRB)は雇用の質の改善が進むこと、そしてトランプノミクスが米国経済の成長率を引き上げることを念頭に置き、今後の金融政策を運営しようとしている。4日に公表された12月の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録では、会合に参加した多くの関係者がトランプ政権下での財政政策の進行が経済の上振れリスクを高めていると指摘している。金融市場では、FRBがどのように金融政策を進めるかさまざまな見方があるが、連銀がこれまで以上に利上げに前向き(タカ派)な姿勢を強めていることは軽視できない。
また、FRBは先行きの不確実性が高いことを認めている。多くのエコノミストらは、この不確実性をトランプノミクスの期待が剥落し、想定以上に景気が落ち込む展開につなげようとしている。
FRBの見方は必ずしもそうではない。今後の経済環境は、相応に不安定に推移しつつも、景気が上振れやすいというのがFRBの見通しだ。確かに、企業が米国での採用を増やし、賃金が増加する場合、米国のインフレ上昇期待は高まるだろう。米国の経済成長率がこれまで以上に高まる可能性もある。こうした経済のシンプルなロジックを、冷静に確認する意義は大きいと思う。
これまで賃金の増加が低調であっただけに、今後の賃金動向は金融政策に無視できない影響を与えるファクターと考えたほうがよい。6日の雇用統計発表後、海外市場では英国がハードブレグジット(EU単一市場へのアクセスを確保しないままEUから離脱)を選択するのではないかとの懸念から、リスクオフが進む場面があった。その分、米国での平均賃金が増加していることへの注意は薄らいでいるようだ。
先行きの経済への期待から賃金に上昇圧力がかかる場合、FRBはトランプノミクスの影響(結果)を確認する以前に、物価の抑制を念頭に置いた予防的な利上げを行う可能性がある。そうした観測が高まる場合、日米の金利差拡大観測からドル円の為替レートには上昇圧力がかかりやすい。年の半ばなど、短期的にはトランプノミクスの影響からドルが主要通貨に対して堅調に推移する可能性があるだろう。
(文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授)