『君の名は。』、観た後に「もう一度確認したい」と思わせる「過剰情報」の秘密
歴代邦画興行収入第2位を記録するなど、老若男女の間で一大ブームとなった『君の名は。』(東宝)。なぜここまでの大ヒットとなったのだろうか。立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に、マーケティングの観点からその秘密を解説してもらった。
TDR同様、根強いリピーターを生んだ
「理由の一つに、リピーターを誘発させたことがあげられると思います。では、なぜリピーターが続出したのか。作品性については映画評論家の方々が語っておられますので、ここではマーケティングの観点から説明したいと思います。私の観点では、過剰なまでの画面情報がその要因となったのではないかとみています」(有馬氏)
新海作品は美麗な風景描写が持ち味のひとつだが、その極致となった本作こそ、何度も映画館に観に行きたくなる要素を含んでいたと有馬氏は分析する。
「本作は、一眼レフや8Kのカメラで撮影したような肉眼で見るよりも美しい風景、電車や自動車の動き、床や路面に映る人の影などの映像が随所に見られます。ストーリーが複雑すぎない点もあり、そういった描写に意識が傾きやすく、このような各場面の緻密な書き込みを、観終わった後に再び確認しに行きたくなる心理を惹起させている印象です。これは東京ディズニーリゾート(TDR)に根強いリピーターがいるのと同じ理屈になります」(同)
TDRは約90%といわれるほど驚異のリピーター率を誇っているが、その秘密は広大な敷地の中に、演出や小ネタを散りばめるなどして過剰に情報を提供することで、一度ではディズニーの世界を味わい切れずに再訪したいといった気持ちにさせている、と有馬氏。『君の名は。』にも同様の要素があるという。
「また、自分では気づかなかったとしても、Twitterなどで細かい部分に言及したつぶやきを見て『そんな場面、あったかな……』とリピート欲求を刺激されるなど、SNSの反響もうまく作用したのではないでしょうか。毎週のように届けられる『興行収入○○億円突破』や『興行収入で歴代○位の○○を抜いた』といったニュース以上に、そういった“話題が話題を呼ぶ”現象を生んだのが本作の特徴でしょう」(同)