「特ダネ」にもさまざまな種類がある。国際政治・経済を動かすようなものから、極めて狭い範疇ながら大きなインパクトのあるもの、公共性の強いものから、プライバシーに近いものと多種多様だ。総じていえることは、外の人間には「この情報源は一体誰なのか」「どのようにして記者はこの情報をつかんだのか」がわからないことだろう。
決して“敏腕”の類ではないが、それでも35年以上も記者という仕事をしていると、ある程度の経験値から、なんとなく「特ダネの“ツボ”」のようなものがわかってくる。「この情報の出所なら、この辺が有力だな」といった具合だ。それでも、記者は常に情報源を秘匿するから、ピンポイントで情報源を特定はできないし、できないからこその「特ダネ」でもある。
ただ、特ダネといわれるような情報が出てくる時、そこにはなんらかの狙いがある。義憤や正義感に駆られて内部告発的に出てくるものもあれば、ライバルの失脚を狙ってというようなものもあるだろう。あるいは、メディアを利用してPRをしたいといった意図もあるかもしれない。ただ、こうした狙い・意図は、記事や報道されたニュースを見ただけではわからない。
先日、大手生命保険会社のトップ交代が日本経済新聞にスクープされた。当然、ライバル紙は広報担当者に激しく詰め寄ることになるのだが、この時のトップ交代は、臨時取締役会といったイレギュラーなものではなく、スケジュールが組まれていた定時取締役会で行われたものだった。日経の記者がこの定時取締役会でトップ交代があるという情報をつかみ、詰めた結果のようだ。
ただ、取締役会が終了していない段階で報道されるのは、当事者の大手生保にとっては問題がある。そこで、同紙だけが夕刊に間に合い、他のライバル紙は翌日の朝刊で掲載となるように両者が歩み寄ったようだ。こうした“持ちつ持たれつの関係”は、マスコミと取材先の間ではよくみかける関係でもある。ただし、こうした動きが表に出ることは決してない。
文書プロパティ
ところが先日、思わぬ落とし穴から企業とマスコミのこうした関係が露見したかのような事態が起こった。
年明け早々の1月5日、読売新聞が三重県の地銀である三重銀行と第三銀行が経営統合を検討しているという特ダネを掲載した。東京証券取引所は、事実確認のため両行の株式を売買停止とした。両行は、午前9時前にはコメントを発表している。