マクロン氏は『ゴーン氏の役員報酬が高すぎるから減額しろ』ということまで言ってきた。株主の多くも、同じことを言った。でもルノーの役員会は『そのままでいい』ということで通した。それでゴーン氏は、政府からも投資家からも厳しく見られ、浮き上がった状態にあります。株主には、ゴーン氏はルノーよりも日産のことばっかりやっている、という不満もある。しかし、フランス政府のすべてが日産からもっとお金を巻き上げようとして、ルノーの持ち株比率を上げようとしているわけではなくて、『財政難だから日産の株なんか売ってしまえ』という声も政府内にはあります。
その声が強くなっていったら、ゴーン氏は日産株の全売却を仕掛けていくでしょう。そうしたら、自分たちでそれを買い戻して、日産とルノーの完全合併を考えるでしょう。それがゴーン氏の日産社長退任の背景にあるのです。今年のフランス大統領選の結果にもよりますが、どんなふうにフランス政府や投資家に立ち向かっていくのか、ゴーン氏の手腕が問われるでしょう」
新たに日産の社長兼CEOに就く西川氏は、フランス政府との関係でも重要な役割を果たしたという。
「フランス政府がルノー株の議決権を拡大しようとした時に、日産側では西川氏が交渉を担当しました。ゴーン氏にとってはその時が一番危機だったので、そういう修羅場を2人でくぐってきて、『西川氏はなんでもわかる』というゴーン氏からの信頼は厚いでしょう。後任を彼にしようと決めたのは、その時だと思います。日産が破綻してルノーと資本提携を結んだ99年、西川氏はヨーロッパにいて購買を担当していました。ルノーと日産の部品共有化という課題に取り組んで、実績を上げて出世してきたわけです。ヨーロッパにずっと行っていたので、英語にも長けているし、欧米流の考え方も理解でき、日本自動車工業会会長という役職もこなしている。『この人以外はもういない』という感じだと思います」
果たして西川氏は、ゴーン氏の期待に応えることができるのか。その経営手腕が問われる。
(文=深笛義也/ライター)