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「牟田専務は2つの点で豊田社長の逆鱗に触れました。ひとつは昨年4月から導入したカンパニー制導入に対して、自動車メーカーにはそぐわないと言って猛反対したことです。二つ目は、2年前に中国天津の物流拠点で爆発事故があった際に、トヨタの工場も被害を受けて従業員が負傷しました。その際に豊田社長が現地に乗り込もうとしたら、牟田専務が『いまは現場が大混乱しているので日本から経営トップが入る局面ではありません』と意見具申したことに、豊田氏は腹を立てました。それ以来、ほかの役員がいる前でも牟田氏を執拗に批判するようになりました。そしてカンパニー制への反対が懲罰人事を決定づけました」
牟田氏の意見がおかしいわけではなく、正論を言ったにすぎない。この牟田氏は、トヨタの工場の生産ラインを建設するなど工場運営を任せられる生産技術部門の「エース」といわれた逸材で、トヨタの生産性向上などに功績のあった人物でもある。
歴代、生産技術系の役員は歯に衣を着せぬ物言いの人が多い。是々非々と意見を戦わせながら現場で工場運営に携わるタイプが多く、牟田氏はその伝統を受け継いでいた。トヨタ社内では自分の意見を言わず、豊田社長の意向を忖度する幹部が増えたなかで、正論を意見具申できる数少ない役員だった。功労者に対してひどい仕打ちの人事で、トヨタのある幹部は「サラリーマンにとって人事は大きな関心事。こんな人事をみていたら、一生懸命働くのが馬鹿らしくなる」と吐き捨てた。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、のごとく、豊田氏は牟田氏の出身母体である生産技術部門の解体にも乗り出しつつある。牟田氏の後継者とみられ、主力の高岡工場長と堤工場長を兼任していた花井幹雄常務理事までも今回の人事で放逐してしまったのだ。
「この人事は将来に禍根を残す人事。トヨタの競争力の源泉のひとつであった生産技術部隊は優秀なリーダーたちを失い、今後立ち直れないだろう」(トヨタOB)
巨大組織では、誰もが納得する人事などできないことは当然であり、人間がやる以上、好き嫌いも入る。しかし、あまりにも公平さを欠き、トップやその側近の好き嫌い人事が横行するようになると、面従腹背の人材が増え、内向きで風通しは悪くなり、組織は必ず腐っていく。
(文=編集部)
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