「人事の原案を作成する立場であることを利用して、入社年次が近いライバルを巧妙に他社に追い出し、自分の出世を確実にしていくタイプ。今年1月1日人事でも将来の人事担当役員候補の部長を豊田合成に追い出したので、当面、後輩に自分の地位を狙われる恐れはない」(トヨタ関連企業役員)
粛清人事
役員人事については、豊田社長が「誰を引き上げろ」などと直接指示することはなく、原案に対して拒否権を発動するといわれている。上田氏は豊田社長の意向を斟酌して原案をつくるのがうまい。このため、能力や実績とは関係なく、豊田氏にかつて秘書として仕えた人物や豊田家を支えた血筋の人物などを昇進者リストに組み入れ、豊田氏の心をがっちり掴んでいる。
その上田氏が事実上の役員の人事権に加えて、経営戦略部門を牛耳る立場に就くことで、
同氏の権勢は増すばかりだ。しかし、「厚遇されている友山氏や上田氏も内心はびくびく状態」(同)なのだという。その理由は、側近でも豊田氏の意向に背くと粛清人事が待っているからだ。
役員ではないが、部長職の立場で秘書として仕えていたN氏がその象徴だろう。N氏は香川県内のトヨタ系大手販売会社の経営者の子息で、大学卒業後、デンソーに入社。その後、トヨタではなく豊田家に採用され、執事として豊田社長の私生活の世話までする役割を果たしていたが、正式にトヨタに入社して何年か経つと、「力量不足」とみなされ、閑職に放逐された。栄華の中心からどん底に落とし込まれたのだ。
それを恐れて、トヨタを去る人材もいる。たとえば、豊田社長肝入りで宣伝部を発展的解消して設立した子会社のトヨタマーケティングジャパンの取締役を務めた後、トヨタ本体でレクサス担当の部長を務めていたT氏が突如、昨年夏にトヨタを退社した。粛清される前に逃げたと、専らの評判だ。
最大の懲罰人事
そして、今年の役員人事で最大のサプライズでもあり、最大の懲罰人事だったのが、グループのトラックメーカー、日野自動車の役員人事だ。
日野社長にはトヨタの常務役員だった下義生氏(58)が就く(1月28日付当サイト記事では日野社長に毛利副社長が昇格するとしていたが、訂正する)。下氏は昨年、日野の専務からトヨタの常務に転じたばかりで、1年で出身母体に戻って社長に就くのは異例だ。そしてトヨタ専務の牟田弘文氏(61)が日野に移って副社長に就任する。トヨタで常務だった者が社長で、専務だった者が副社長になるわけで、「逆転現象」が起こってしまった。この人事こそが「懲罰」とトヨタ社内ではみられている。
トヨタ社内の事情通がこう解説する。