ロイヤルHD会長の菊地唯夫氏は、業界団体の日本フードサービス協会会長も兼任しており、業界全体の視点で外食産業の今後も考察する。たとえば同協会主催の経営セミナーで語った「人口構造の変化に加えて、消費者ニーズの多様化や社会生活の変化、中食との競合など、これまでの産業化モデルでは対処できない時代となってきた」という言葉には、業界の先行きへの危機感がある。菊地氏が指摘する「消費者ニーズの多様化」には、近年の飲食店で目立つ、ひとり客や訪日外国人客、そして高齢客の増加も含まれる。
イスを低くして、杖も預かる「てんや」の取り組み
高齢客に配慮した取り組みがもっとも進んでいるのが、天丼チェーン店の「てんや」だ。もともと退職世代からの支持が高く、平日昼下がりの店内には高齢客の姿が目立つ。偶数月15日の年金支給日には一段と高齢客でにぎわうという。
てんやでは分量の調整が可能だ。1/2人前サイズの「小(こ)うどん、小そば」を提供し、小盛りごはんは定価の50円引きとなる。水ではなく麦茶(温・冷)の提供もこだわりを持っている。弁当などの持ち帰り客向けにも座席を用意し、出来上がりを待つ間に麦茶を提供する。
ここまでは競合店でも行っているが、てんやには他店と違う取り組みも多い。
「たとえば出入り口の自動ドアは、閉まるスピードを遅くしています。お客様が挟まったり、当たったりしないように、人を感知するセンサーも、『上から・手でタッチ・膝の高さ』の3点に設定しました。また、新店舗やリニューアル店舗では、カウンター席のイスの高さを従来の72センチから45センチへと、かなり低くしています」(広報)
加齢などで身体機能が衰えると、自分が描くイメージ通りに身体が動かない。そうしたお客が店で過ごす居心地にも配慮したのだという。
昨年8月からは「転ばぬ杖」という器具の貸し出しサービスを始めた。杖をついて、てんやに来店する高齢客や身体が不自由なお客の杖を、専用器具を使ってテーブルにかけておくものだ。一部のテスト店舗では、会計時のレジ台に設置することも可能で、例えていえば、雨天時の傘の収納手法の応用版といえそうだ。
筆者は時々同店を利用するが、車いすで来店する高齢客もいる。その際は店員が広めの席に案内するなど、以前から競合店に比べて高齢者接客が進んでいると感じていた。同社では、顧客満足度向上の取り組みのひとつとして「シニアに優しいてんや」を掲げているという。