そして、「衛生植物検疫」では以下が明記されているである。
「収穫前及び収穫後の両方に使用される防かび剤について、農薬及び食品添加物の承認のための統一された要請及び審議の過程を活用することにより、合理化された承認過程を実施する」
「我が国において未指定の国際汎用添加物について、原則としておおむね1年以内に我が国の食品添加物として認めることを完了することとした2012年の閣議決定を誠実に実施する」
日本に米国から輸入されるレモンやオレンジ、グレープフルーツなどには、ほとんど防かび剤が使用されている。レモンなどにOPPやTBZなどの表記があるが、それが防カビ剤である。新たな防カビ剤を使う場合、日本の承認手続きが複雑で時間がかかることを問題視しているのである。それを合理化して迅速に承認するというものである。当然、新たな防かび剤の承認を目的としているのであるから、日本の食卓には、OPPやTBZだけでなく、新たな防カビ剤が入り込んでくることになる。
履行の必要がないサイドレターの内容を実行
現在の未指定の国際汎用添加物は、以下の4品目である。
・アルミノケイ酸ナトリウム(固結防止剤)
・ケイ酸カルシウムアルミニウム(固結防止剤)
・カルミン(着色料)
・酸性リン酸アルミニウムナトリウム(膨張剤)
この4品目の共通点は、アルミニウムを含有する食品添加物であるということである。そこに大きな問題がある。実は06年のFAO(国際連合食糧農業機関)/WHO(世界保健機関)合同食品添加物専門家会議で、アルミニウムについて従来の摂取量基準7mg/kg以下の用量で、生殖系および神経発達に影響を与えることが判明した。
その後、水腎症などの泌尿器病変などの影響も判明し、11年に基準が2mg/kgまで引き下げられたのである。コーデックス委員会やEUでも、アルミニウムを含有する添加物由来の摂取量を低減させるために、食品添加物の基準見直しを進めている。
このような問題のあるアルミニウム食品添加物を食品添加物として認めろと米国政府は要求し、日本政府はそれをこの書簡で約束したのである。
しかし、そもそも日本にTPP参加の条件として、この非関税障壁の撤廃を求めた米国は、トランプ政権下でTPPから離脱したわけであり、このサイドレターの前提条件が崩れており、日本政府がその履行を進める必要がない。
ところが、驚くべきことに日本政府は、このサイドレターの内容を実行するとしているのである。この問題を国会で追及された岸外務副大臣は、次のように答弁している。
「今御指摘の、書簡に記載されました非関税障壁、非関税措置等は、そもそも我が国のこれまでのとってきた取り組みやあるいは今後自主的に行う取り組みを確認したものであるということを踏まえまして、今後とも適切に進めていくという考えでございます。(略)これらの措置につきましては、我が国の企業や投資家にとっても有益なものであるというふうに思っております」(同)
消費者のためでなく、企業や投資家のために推進することを明け透けに答弁したのである。
(文=小倉正行/フリーライター)