外食のM&A(合併・買収)で次の主戦場になるのはカフェ業界である。売り物が出れば、すぐに買い手がつく状態だ。カフェやファーストフード業界のM&Aで独立系投資ファンド、ロングリーチグループ(香港)が存在感を増している。
ロングリーチは今年1月、シャノアール(東京・豊島区、非上場)を買収すると発表した。シャノアールは1965年の設立。セルフサービス型コーヒーショップ「カフェ・ベローチェ」、フルサービス型カフェ「コーヒーハウス・シャノアール」など195店を運営。従業員数は5190名。都心で手ごろな価格でコーヒーを提供する店として知られていた。
ロングリーチは2018年、UCCホールディングスからカフェチェーン「珈琲館」(東京・渋谷区)を買収した。フルサービスの喫茶店として国内2位の「珈琲館」は炭火焙煎コーヒーが特徴で、全国に約300店を展開している。UCCは顧客の目の前でコーヒーを1杯ずつ抽出するサービスを売りにしている「上島珈琲店」に経営資源を集中する。
2016年、米国系ハンバーガー店「ウェンディーズ」を展開するウエンディーズ・ジャパンは、サントリーホールディングス傘下のファーストキッチン(東京・新宿区)を買収した。その際、ロングリーチはファーストキッチンの第三者割当増資を引き受け、筆頭株主になった。ウェンディーズの日本での事業をロングリーチが支援する。
ロングリーチは2005年、藤田田氏の一族から買い取るかたちで日本マクドナルドホールディングスの株式を保有したこともある。日本マクドナルドは米マクドナルドと藤田商店の共同出資で発足。藤田一族が撤退して持ち株を手放すことになった。
ロングリーチは、香港・上海のロングリーチグループ・リミテッドと東京のロングリーチグループ(東京・千代田区)を拠点とする独立系投資ファンドである。東京のロングリーチグループの代表取締役兼パートナーの吉沢正道氏は住友銀行出身。ロバートソン・スティーブンスインターナショナル、モルガン・スタンレー証券を経て2003年、ロングリーチグループを設立した。パートナーの杉本友哉氏は日本長期信用銀行出身。モルガン・スタンレー証券で投資銀行本部テクノロジー部門のエグゼクティブ・ディレクターを務めていた。
カフェ業界はスタバの一人勝ち、ドトール、コメダが追う展開
コンビニコーヒーの登場でカフェ業界は大激震に見舞われた。11年にローソン、12年にファミリーマート、そして13年にセブン-イレブンが100円コーヒーを売り出し大ヒットした。これにより、専業のコーヒーチェーンの再編が加速した。珈琲館、続いてシャノアールを投資ファンドが買収。東京の高級喫茶店の代名詞だった銀座ルノアールはキーコーヒー(東証1部上場。出資比率は34%)の傘下に入った。
現下のカフェ業界はスターバックスコーヒージャパンが一人勝ちの状態だ。1996年、日本1号店をオープン。15年3月に上場を廃止した。チェーン店ながら洗練された店内。おしゃれなメニューの数々。欧風のオープンテラスの併設などが女性層に支持され、国内のカフェブームのきっかけとなった。
2010年に912店だった店舗数は1581店(20年6月末時点)と1.7倍になった。コロナ前に掲げた「21年末までに1700店」という店舗数の目標は取り下げていない。決算公告によると、19年12月期の売上高は前期比10%増の2011億円、営業利益は9%増の182億円。売上高が2000億円を超えるカフェチェーンはスタバだけだ。
ドトール・日レスホールディングス(東証1部上場)傘下のカフェの老舗「ドトールコーヒー」の店舗数は1311店。ドトール・日レスの20年2月期の売上高は792億円、営業利益は48億円。日本国内のカフェチェーンで1000店を超えるのはスタバとドトールだけだ。ドトール・日レスグループの日本レストランシステムは「星乃珈琲店」を運営している。ドトール・日レスはグループ全体では2000店を突破している。
コメダホールディングス(東証1部上場)が激しく追い上げる。中京地区を地盤に「珈琲所 コメダ珈琲店」がスタートし、20年2月末時点で873店、売上高は312億円、営業利益は78億円だ。名古屋名物のモーニングサービスで独自色を出している。
このほか、ダスキン(東証1部上場)が運営する「ミスタードーナツ」、伊藤園(東証1部上場)の100%子会社のシアトル系カフェ「タリーズコーヒー」、クロワッサンが看板の「サンマルクカフェ」(サンマルクホールディングス、東証1部上場の傘下)、サントリーHD傘下で昼はカフェ、夜はバーの「PRONTO」など多種多彩である。
カフェは規模がそれほど大きくないので、最大でも数百億円程度でM&Aが可能だ。ファンドも金が出しやすい業種だからM&Aが起きやすい経営環境にある。シャノアールの次はどこがM&Aの対象になるのか。
(文=編集部)