明方ハムの特徴
ハムには、ロースハムやボンレスハムなど、さまざまな種類があるが、代表的な商品である明方ハムはプレスハムに属する。プレスハムとは、日本独自の製法であり、寄せハムとも呼ばれ、肉塊を少量のつなぎと混ぜ合わせてケーシングに詰めてつくる。昭和40年頃までは、日本ではこのプレスハムが一般的であった。
プレスハムのなかでも、肉塊の割合が90%以上で、かつ豚肉100%のプレスハムのことを「特級プレスハム」と呼ぶが、明方ハムはこの特級プレスハムに属している。原料には国産の豚もも肉を使用し、手間ひまを惜しまない手づくり製法により、昔ながらの味を守り続けている。具体的には、国産の新鮮な冷蔵豚肉の大きな塊の肉を小さく角切りし、スジ、脂肪、軟骨、血合い、血管等を取り除いている。こうした丁寧な手仕事により、原料の約25%はハムに使わないことになる。
さらに、過去の経験を生かし、角切りにした豚肉と脂肪を定量で混ぜ合わせ、水を一切使わず塩、砂糖と少量の添加物を肉に練り込み、約2週間熟成させ、その後、充填、殺菌ボイルというプロセスを経て完成させている。もちろん、保存料、着色料、酸化防止剤、増量剤は使用していない。こうした製法は、たとえ大手メーカーであっても規模の経済が働きにくく、明方ハムのメリットとも捉えられるだろう。
スーパーで販売されている大量生産されたハムは通常、肉と同量の液体が注入されており、こうしたことを行わない明方ハムの原価率はかなり高い。自社のオンラインショップで税込み1190円(400g)で販売されているハムは、大手なら2000円くらいの価格になるだろう。こうした点に関して、利益重視の民間企業ではなく、農協ゆえ、少ない利幅でも事業を継続できている面もあるらしい。
明方ハムの成功要因
大手メーカーがひしめくハム業界で、長きにわたり事業を継続できた要因として、単品経営が挙げられる。60年にわたり、明方ハムというひとつの商品を製造・販売してきた。利益拡大を重視する民間企業であれば、商品ラインアップの拡大も徹底して行ったであろうが、安定した経営を重視する農協という組織の特性により、堅実経営が行われてきたのである。
こうした長期にわたる単品経営のメリットとして、すでに確固とした信用に基づくブランドがあるため、広告や営業に大きな投資を行う必要がない点などが挙げられる。実際、3年前までは営業部隊すら存在しなかった。