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片山修のずだぶくろトップインタビュー 第7回 村上清貴氏(村上農園社長)前編

決められたことをやらない「農業=脳業」企業の唯一無二経営!生産センター倒壊から奇跡の急成長

構成=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

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片山 具体的には、何をしたのですか。

村上 すべての面から改革しました。まずは良い種を選び、調達する。生産ではITを使いました。サーバーを設け、毎日全センターの栽培データを入力し、誰でも見られるようにした。今でこそ当たり前ですが、当時は難しいことでした。

 これはつまり、栽培管理の徹底ですね。たとえば、「冷蔵庫の温度は5度に設定してある」というけれど、夏と冬では庫内の温度は異なり、冷蔵している間の植物の伸び方が違ってくる。季節に応じて、何cmで冷蔵庫に入れれば、その後の生育はどうで、パッケージに詰めたときの長さはどうか。細かく数字でチェックして、コントロールできるように変えていったのです。物流においても、低温配送を徹底しました。

 出荷計画の立て方も変えました。われわれの商品は、7日から10日程度で商品化されますので、1週間先の販売計画に基づいて種まきをします。営業上の販売計画と例年のトレンド、現在の野菜の市況などによって販売計画は変化する。それを加味し、全社共通のデータを見て、種まき、生産、営業などの出荷計画を立てられる仕組みをつくりました。品質統一のために、栽培日数が伸びたりコストが増えることになってもいい。まずは徹底して品質を優先しました。

「農業」ならぬ「脳業」

片山 村上さんは、村上農園のビジネスは「農業」ならぬ「脳業」ビジネスだと話しています。植物工場で、ITを使って生産管理する野菜づくりは、熟練生産者のカンや経験に頼る従来の農業とは違いますね。

村上 確かに栽培データを管理したり、ITやロボットを使ったり生産性を追求する考え方は、「工業」と同じです。ただ、製造業と農業は、まったく違う点があります。

 製造業は、決められた手順や時間のなかで生産することを求められます。一方の植物工場は、手順も時間も決められた通りにやってはいけない。工場の立地、季節、その日の天気、湿度や温度といった外部環境、設備の環境に合わせて、散水や遮光のタイミングなどを変えなければいけないからです。

片山 しかし、今は完全閉鎖型で人工光型の植物工場がありますよね。ボタンを押すだけで、生産者にはなんの経験も知識も必要ないことを謳う植物工場もあります。

村上 確かに、人工光型ならそれは可能です。しかし、設備投資やランニングコストはどうか。南極や砂漠ではなく、国内における生産を考える限り、エネルギーコストを考えれば太陽光を利用するのが一番効率的です。日本は世界的に恵まれた環境にありますから、人工光型の植物工場を設置する意味が、本当にあるのかという話です。

片山 しかし、そうすると生産には生産者の経験やノウハウが求められます。

村上 そうです。まずは現場レベルで植物と向き合って、観察、記録、考察し、成長データと商品を見比べて、栽培工程を組み立て、次の栽培につなげていく。生産者がノウハウを身につけることです。

 将来的には、AI(人工知能)を利用した生産も視野に入れています。しかし、AI導入は、現状、人が判断したデータからディープラーニングさせるのが最も実用的とされています。まずは、地道にデータを蓄積しなければ始まりません。

 しかも、ある条件下で野菜がどう変化したかというインプット情報は、複雑なものが多すぎる。たとえば種は、生産地や生産時期によって発芽率や発芽勢、生育スピードなどが違う。しかもそれは一概にはいえない。簡単にはいきません。

片山 今はデータ蓄積段階にあるわけですね。植物工場は、箱さえつくればいいわけではないんですね。

村上 われわれは長年、全国の異なる環境下にある生産センターで、すべての品質が同じになるように努力してきた。これは、簡単なようで非常に難しいノウハウなのです。現状は、人が植物の生長を目で見て、考えて、水や光などの加減を変えながら統一された品質にもっていく以外にないんです。

片山 ロボットの導入はいかがですか。

村上 各工場は自動化を進めていて、箱詰めやパッケージングはロボット化が進んでいます。現在、社員は83人、パートは約340人で、売り上げ規模が拡大しても、それほど人を増やさなくても間に合うと考えています。

コンペティターはいない

片山 大手の植物工場参入が目立っていますが、栽培ノウハウにかけては村上農園に一日の長がありますね。

村上 そもそも、われわれにはコンペティターはいないのです。露地栽培と競争する野菜はつくりません。新しい野菜をつくり、マーケティングを最大限活用し、売れる仕組みをつくる。実際、豆苗とスプラウトは現状、うちが国内シェアの半分以上を握っています。

片山 村上農園が市場を創造したといっていいですね。植物工場には、トマト、レタス、パプリカなどもありますが、参入される気はないのですか。

村上 ありません。キャベツも白菜もキュウリもつくる気はない。

片山 露地栽培とも競争しないというのは、なぜですか。

村上 簡単にいえば、現状、同じ野菜をつくると、露地栽培のほうが品質がいいからです。四季のある気候において旬のものや、昼夜の気温差によって食感や食味がよくなる。年中20度の植物工場では、これを実現しようとすると、電気や水道などランニングコストがかかりすぎます。植物には遺伝子があり、どんなにがんばってもレタスは1日ではできませんから、製造業のような劇的生産性向上も期待できない。納期の安定はメリットですが、今後、天候異変でプチ氷河期などにならない限り、露地野菜と競争してもビジネスは成立しません。われわれが価格決定権をもてる商品、これから世に浸透させていく商品であって初めて、植物工場のビジネスモデルは成立すると考えています。

片山 100億達成後の目標はいかがですか。

村上 20年に150億円の規模になって、発芽野菜メーカー国内断トツとなり、日本の農業界をリードしていきたいですね。25年に300億円、35年には1000億の規模を目指しています。

片山 すごいですね。

村上 口だけなら、いくらでもいえますからね(笑)。1000億円といえば途方もない話に聞こえますが、5つの事業を展開して実現する考えです。スプラウト事業200億、豆苗事業200億、近年開始したばかりのスペシャリテ事業100億。それから、まだ何も決まっていませんが、新規事業X300億、新規事業Y200億の計1000億円です。

片山 豆苗は、現在の約10倍になる計算ですが、できますか。

村上 できます。今、ひとつのスーパーで売れる当社の商品は、平均1日3個から5個程度です。それが20個になるだけでも、売り上げは5倍になる。需要拡大はまだまだできると見ています。まあ、その頃には私はいません。みんなで成し遂げてほしいと言っています。
(構成=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)

※後編に続く

【村上さんの素顔】
片山 好きな食べ物はなんですか。

村上 魚、エビ、カニ、貝類はすべて好きです。基本的に好き嫌いはありません。仕事柄、世界中でいろんなものを食べますが、なんでも大丈夫です。ペルーでは「クイ」と呼ばれる大型のネズミを食べてきました。油ののったチキンのような味で、おいしかったですよ。

片山 最近、読んだ本を教えてください。

村上 今は、『アマゾン漢方』(永武ひかる著・NTT出版)を読んでいます。やや古い本ですが、アマゾンの呪術師が使う飲み物とかタバコなど民間療法のことが書いてあります。機能性野菜のヒントになるので、興味があるんです。

片山 ストレス解消法は。

村上 ストレスを感じないんですよね。社員はみんな感じていると思いますが(笑)、私は楽しくてやっていますので、ストレスはないですね。

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片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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