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片山修のずだぶくろトップインタビュー 第7回 村上清貴氏(村上農園社長)後編

豆苗で世界を制す!地方の一農業ベンチャー・村上農園が海外展開加速…世界一の技術確立へ

構成=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

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村上 そうですね。国内においても、和、洋、中すべてに使えるツマモノのような野菜を、B2Bで展開していきたい。世界中にそういう食材はたくさんありますので、それらをいかに利用するかです。コッパート・クレス社は、その点、多大なノウハウを持っている。われわれは、いわゆるタイムマシン経営のかたちで、彼らのノウハウを吸収して、日本のマーケットに供給していきます。

 現在、山梨北杜生産センターの約3分の1でオイスターリーフをはじめとする数種類の新商品を生産しています。今後は、レストランの現状や需要などを調査しながら、業務用の営業部隊を増やしていきます。オイスターリーフから始まるスペシャリテ事業を、20年に8億円にしたいですね。

いかに海外展開するか

片山 人口減少社会にどう対応していきますか。

村上 現在2兆円の野菜の国内市場は、当面成長しません。ただし、1兆5000億円になったとしても、オリジナルの強みをもつ商品をしっかりと展開することで、売り上げ拡大を目指すのが国内ビジネスの方向です。

 一方で、海外に商品を売らないとそれ以上の成長は見込めない。国内と対照的に、世界人口は増加し、市場は拡大しますからね。ただし、海外市場へは1社で参入するつもりはない。現地の会社と組んで、われわれの生産ノウハウを提供するライセンス供与のビジネス、また、彼らからもわれわれにないノウハウを得るというかたちを考えています。

片山 コッパート・クレス社との提携が布石になりますね。

村上 その通りです。海外企業との提携は、モンゴルや中国、台湾などと話が進んでいますが、相手の国と企業があってのことなので、状況を見ながら進めていきます。
 
 海外企業との提携の橋頭保といえるのは、沖縄村上農園です。13年7月に沖縄で、沖縄物産企業連合と合弁会社をつくり、大宜味村に植物工場を構えて豆苗とスプラウトの生産を行ってきました。設置から2年8カ月を経た昨年2月から単月黒字化しています。これがひとつのモデルとなります。

 沖縄の食文化は本土と少し違い、特有の歴史や背景がある。そのなかで、豆苗、さらにスプラウトなど高成分野菜という新たな価値を示すことで、何ができるかを考えないといけません。

片山 沖縄は亜熱帯気候ですが、夏場は台風が多いし暑すぎて葉物野菜が育ちにくいのが悩みですよね。

村上 本州から夏野菜を送るのですが、船便は時間がかかって鮮度が落ちるし、空輸は高い。新鮮な葉物野菜を安価に食べるのは難しいんです。植物工場で豆苗を現地生産すれば、新鮮かつ安価で提供できます。

片山 熱帯気候の国と条件は似ているというわけですね。豆苗やスプラウトは定着しましたか。

村上 定着し始めたので、黒字に転換したと思っています。実際に沖縄の成功を見れば、海外の企業も納得します。

片山 海外展開は、将来的にはどんなビジネスモデルを考えていますか。

村上 簡単にいえば、ライセンス供与をしながらの世界展開を考えています。さらに先のことをいえば、世界中の工場を本社で一括管理するシステムをつくりたい。今後、広島の本社に「ワールドコントロールセンター」をつくる予定です。各国の拠点をネットワークで結び、モニターを見ながら栽培データや栽培状況をリアルタイムで共有し、問題点や改善点を話し合う会議などをできるようにしたい。

 もっというと、当社が蓄積した栽培ノウハウをAI(人工知能)化し、各国クライアントシステムの状況やニーズに応じて、当社サーバーから指示を出せるかたちにしたい。つまり、お客様に、AI化したノウハウをサービスとして提供するということです。この指示が非常に適切で、一度サービスを受けたお客様が「やみつき」になって、「契約をやめたくても止められないじゃないか」と言っていただけるような商売がいいですね(笑)。そういうビジネスモデルを展開できたらおもしろいなと思っています。

家電のガラパゴス化に学ぶ

片山 農業ビジネスの海外展開は先例やベンチマーク先が少ない。日本企業の海外進出の歴史を見れば、製造業からは学ぶべきことがありそうですね。

村上 先日、仕事でペルーへ行きましたが、ほとんど日本の家電製品を見かけず、韓国、中国製品の勢いがすごい。アメリカも同じです。家電のガラパゴス化の教訓としては、国内で売れるものではなく、各国の市場に求められる商品を提供していかないといけないと思っています。スマートフォンにも学ばないといけない。プラットフォーマーが利益を確保し、アジアが下請けや組立工場となっています。

 われわれは、製造業が過去に歩んできた道から学び、その良さを取り入れつつ、問題点から学んで成長戦略を描いていかなくてはいけません。

片山 社員に世界を意識させることも重要ですね。

村上 16年から、世界一の栽培技術を目ざす「ワールド・ワン・プロジェクト」を開始しました。栽培段階を複数のステップに分け、その下にさらに複数のプロジェクトを設けて取り組んでいます。豆苗やかいわれ大根、スプラウトなど全商品について、全センターのメンバーがそれぞれのプロジェクトに入っています。

 栽培技術の向上は、従来は対症療法的な試みでしたが、「ワールド・ワン・プロジェクト」は、より根本的な取り組みです。いかに育てるかだけではなく、どの種(タネ)をどう使うかというレベルから取り組んでいる。

片山 具体的にはどういうことですか。

村上 たとえば豆苗は、豆苗という野菜ではなく、エンドウ豆の苗の集合体です。集合体が均一でないと商品としては失格です。「多少の長い短いは仕方ない」は通用しない。均一になる条件を揃えようということです。

 ひとつは、生育の均一な種をつくる。それでもばらつきは出ますから、次に生育の早い種のグループと遅い種のグループにわける。そうすればばらつきは小さくなります。種以外にも、環境制御の点からできるだけ同じインプットを与えられる機械や環境を考える。

 10年後には、「村上農園の商品は、どこをどう切っても金太郎飴のように同じ」という状態にするのが目標です。お客様に、「村上農園の商品は、なぜか知らないがいつも一緒」と思われる状況をつくりたい。

 そうすれば、ライセンス供与先が契約を解除したとき、当社のサービスなしでは豆苗の品質がバラついて、誰の目にも明らかな差が出てくるわけです。「村上農園との契約を止めたからかな」などと噂されたりして、やっぱり村上農園とやりたいと思っていただけるでしょう。

片山 おもしろい。新しい農業ビジネスのかたちですね。

村上 あとは、実現に向けてがんばります。
(構成=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)

【村上さんの素顔】
片山 ご自分の性格を一言でお願いします。

村上 しつこい。やれるまでやる。わがまま。人のいうことを聞かない、信じない。

片山 いいですね。

村上 社員に「人のいうことを信じるな」というと、それはあまりにひどいといわれるので、最近は「人のいうことを鵜呑みにするな」と、表現を変えています。

片山 行ってみたい場所はありますか。

村上 アフリカ大陸に行きたいです。南アフリカ、ジンバブエあたりですね。新しい野菜を探しに、未知の領域に行きたいのです。

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片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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