「簡潔にお願いします」と、綱川議長。
「だから、2分以内なんてルールはやめにしようよ。これは議事進行に対する動議です」
「誠意を持って、できるだけ多くの意見をお聞きしたいと思います」
綱川議長はそう言って、動議に関する賛否は問わず、別の株主を指名した。
「安倍政権が働き方改革を呼びかけているが、東芝は民主政治ではなく専制政治であり、上の言うことには法律違反でも逆らえず、平然と首切りが行われている。見せしめのために仕事を取り上げ反省文を一日中書かせ、解雇した。団体交渉を一方的に打ち切るのはひどすぎる」
牛尾文昭専務の答えは「東芝総合人材開発株式会社で解雇の撤回について交渉していると認識しているので、回答は差し控えさせていただく」というもの。グループ会社のことなので、関係ないということか。
原子力事業や、これから中軸に据えるという社会インフラ部門への質問などが続くが、回答はお決まりのものだ。再び「動議!」の声が上がり、綱川議長が指名する。
「先ほどの方が提起した動議を取り上げなかった議長を、解任する動議を提出したい。1人1問2分というのは、とんでもないルールだ」
「3問の質問をされた方もいますし、適切に対応しています。私を議長から解任するという動議には反対ですが、皆さんいかがですが」(網川議長)
会場からは「反対!」と声が上がる。
「反対が多数と認め、ただいまの動議を否決します」(網川議長)
会場からは怒号が飛んだ。
経営幹部への退陣要求
株主からは、厳しい批判の声が続く。
「海外でも東芝の失態は報道されていて、世界中の笑いものになっている。あんたらは無能な経営陣だ」
「東芝はものづくりの会社だということを忘れないでほしい。WHの買収なんて、人のふんどしで相撲を取るようなことを考えるから、こんなことになる。従業員が路頭に迷わないようにちゃんとやってほしい」
「経営幹部の退陣を要求する」
「うちわにはリーディングイノベーションと書いてあるが、実際にはリーディングウソベーションじゃないか。志賀が健康上の理由で来られないなんて、ただかくまってるだけじゃないのか。杓子定規の答弁ばかりだし、ウソの体質が染みついた信用できない会社に、東芝はなっている。東芝の社員は超一流だが、幹部はクズだ!」
「本当に志賀が健康上の理由で来られないというのだったら、診断書でもスクリーンに映して欲しい」
こうした批判に綱川議長は、「ウソのない体質ということを胸に刻んで参りたいと思います」「ご批判を心にとめて経営を進めて参ります」と、定型文のような答えを返していく。
批判はやむことなく、株主総会は3時間半におよんだ。
「銀行からの融資の条件が社長の辞任だったら、あるいは今日の議決の賛成する条件が社長の辞任だったら、あなたは社長を辞めますか?」
株主からの最後の質問に、「仮定の質問には答えられません」と綱川議長は言った。
メモリ部門を分社化する決議は可決された。大企業は他社とお互いに大量の株を持ち合っていて、会社提案が否決されることは、ほとんどない。
(文=深笛義也/ライター)