東芝の決算延期、報じられない「監査法人への疑問」…「東芝=悪」先入観の危うさ
経営危機に陥っている東芝が、会計基準と監査法人を変更することを検討していると報道されている。事業年度終了後に会計基準と監査法人の両方を変更するというのは前代未聞だ。各方面からは批判的な声が相次いでいる。
しかし一方で、「東芝悪し」という一方的な報道のあり方も考えるべきところがある。そもそも、前提となる事実が正確に報道されていない。
会計基準と監査法人変更の背景
東芝は、第3四半期報告を2度にわたって延期した。理由は、監査を担当するPwCあらた監査法人との見解の相違が埋められなかったからだ。
あらたが問題視したのは、2015年に行われた米原発子会社ウェスチングハウス(WH)による買収の際の内部統制の不備だ。買収時の取得価格の配分に関して上層部からの不当なプレッシャーがあったとする内部告発が、WH内であったのだ。
東芝は、第三者委員会による調査などをして「問題なし」と回答したが、あらたはそれを不十分と考えたらしい。両者の溝は埋まらず、結局、監査法人からの四半期レビューに対する結論は不表明という、これまた上場企業としては異例の結果となった。
このまま年度末監査を迎えても、あらたとの溝は埋まらないと判断したのだろう。東芝は、監査法人を変更することを検討し始めた。新しい監査法人は準大手クラスを考えているらしい。
準大手クラスに変更する布石として、会計基準も米国基準から日本基準に変更するということのようだ。実は東芝は、IFRS(国際会計基準)に変更することを表明していたが、準大手クラスの監査法人にとっては、米国基準やIFRSは馴染みが薄く荷が重い。そこで、IFRSへの変更は取りやめ、日本基準に変更するということなのだろう。
事業年度がすでに終了しているこのタイミングで、会計基準と監査法人を同時に変更するというのは、さすがに異例中の異例だ。時間的・能力的に十分な監査が可能なのか、大いに疑問だ。
仮に変更できたとしても、果たしてそれによって東芝が得るものはあるのだろうか。開示制度の根底にあるのは、情報に対する信頼性だ。事業年度が終了しているこのタイミングで会計基準と監査法人の両方を変えるというのは、フィギュアスケート選手が演技を終えてから採点基準と審査員を選手の意向で変えるようなものだ。それで高得点が出たところで、誰がそれを信用するだろうか。
東芝は、適正意見を手にすること引き換えに信頼性というもっとも重要なものを失うという、本末転倒な結果になりかねない。