東芝の決算延期、報じられない「監査法人への疑問」…「東芝=悪」先入観の危うさ
監査法人側には問題はないのか
一方で、東芝側だけに非があるわけではない可能性もある。その前提として、各メディアの報道の誤りについて言及しておきたい。
NHKも日本経済新聞も、先の第3四半期報告に関して「監査意見不表明」と報じているが、四半期報告に対して行うのは「監査」でもなければ「意見」でもない。行うのは「レビュー」であり、不表明となったのは「結論」だ。レビューは監査より数段保証レベルが下がるものであり、短期間に行うことを前提としているので、積極的に「意見」を表明できるような代物ではない。それを多くのメディアが「監査意見不表明」というのは、無頓着なのか無知なのか意図的なのかはわからないが、ここを正確に理解しておかないと、今回の件も偏った見方になってしまう。
四半期報告は、そもそもタイムリーディスクロージャーのために始まったものなので、四半期終了日から45日以内の開示を求めている。だから、積極的な証拠集めを想定しないレビューにあえてしているわけだ。東芝の第3四半期報告で直接の問題となった内部統制も、四半期レビューにおいては積極的な評価対象とはされていない。そこを詳細に突っ込んだら、報告書の提出期限に間に合わないのは当然だ。そう考えると、監査法人の四半期レビューが過剰だったのではないかという見方もあり得るのだ。
さらにこれが監査だとしても、監査法人は何を望んでいるのかよくわからない部分がある。報道によれば、東芝は第三者委員会を設置し、米国の弁護士にも調査を依頼している。そのいずれも調査結果は「問題なし」だ。前任の新日本監査法人の見解も「問題なし」である(不適正会計を見逃して行政処分を受けた新日本監査法人の見解がどこまで信用できるかという疑問は残るが)。
それでも監査法人側が認めないとすると、東芝としては「一体、あと何をすればいいの?」という気持ちだろう。こうなってくると、あらたは「クロ」という結論ありきの監査になっていたのではないかという疑問さえ出てくる。行政処分を受けた新日本監査法人の後を継いで、肩に力が入り過ぎている気もする。
一連の騒動の原因をつくったのは東芝であり、東芝に対する批判は逃れられないが、「東芝悪し」という一方的な見方だけではない見方もあり得るという視点は、持っておく必要がある。そして、そういう冷静かつ客観的な目を持つためには、報道を鵜呑みにしないことが重要だ。少しでも専門的な話に関して、メディアは驚くほど無知である。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)