文氏の当選は、韓国が米国を軸とする安全保障の傘から離れることにつながると考えられる。それは朝鮮半島における米国の影響力を低下させ、朝鮮半島情勢の不安定さを高める恐れがある。このように文氏の政策には、北朝鮮の暴走を助長し世界の地政学リスクに無視できない影響を与える恐れがある。今後も北朝鮮が軍事的挑発を続けた場合、かつての盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権のように融和を重視する政策があだとなり、韓国の政治が混乱することが懸念される。
日本のとるべき大人の対応策
朝鮮半島情勢が混迷すれば、日本には無視できない影響が及ぶだろう。北朝鮮が核実験に踏み切れば、日本の安全保障に関するリスクは高まる。朝鮮半島発の地政学リスクの高まりは、世界の投資家や企業のリスクテイクを阻害する恐れもある。その場合、日本の輸出や生産活動は落ち込み、景気回復のペースが鈍化する展開も考えられる。こうしたシナリオを念頭に置いて、政府は今後の改革を進めるべきだ。
重要なことは、国際社会における日本の発言力を高めることだ。どうするかといえば、日本の考えを支持し、ともに行動しようとする国の数を増やすことだ。多数決の論理に従い、日本の主張が国際社会で受け入れられやすい環境を自ら整備するしかない。
米国が自国第一主義に走るなかで日本が発言力を高めていくためには、アジアを中心に各国との関係を強化することが欠かせない。米国は自国の産業を保護し、その上で自国に有利な自由貿易協定(FTA)を各国と締結することで輸出を増やし、貿易赤字を削減しようとしている。
この問題に対して、主要国は保護主義的な政策の進行に待ったをかけることができていない。そのなか、日本はアベノミクスの目玉といわれてきた構造改革を進め、これまで以上に市場原理を重視した改革を進めるべきだ。それは、自由貿易体制を強化し、多国間の経済連携を進めることにつながる。
日本は、11カ国での環太平洋パートナーシップ(TPP)に関する協力を取りまとめ、米国が主張するFTA以上のメリットを国際社会に提示し、賛同を集めることに注力すればよい。そのなかで、日本への支持拡大など、相応のメリットがあると判断できる場合は、インフラ開発などに関する支援をヒト、モノ、カネの面から行うべきだ。冷静に現状を分析し、実利ある行動を選択することが求められる。
中国もシルクロード経済圏構想の強化を狙うなか、日本は迅速に多国間の経済連携を進め、経済基盤と発言力の強化に取り組むべきだ。それが、朝鮮半島情勢の混迷が懸念される今後の状況を乗り切るためには不可欠だろう。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)