一方、丸紅側も、08年にイオンが三菱商事から5%の出資を受け入れたことについて、「イオンは二股を掛けている」(丸紅役員)と受け止めていた。
そんな丸紅には、ダイエーを容易に手放せない事情があった。
「総合商社としてあらゆる機能を発揮する」。06年、勝俣宣夫社長(当時、現相談役)はそう豪語して再生機構からダイエーを698億円で買収した。その後の経緯は前述の通りだが、丸紅の「ダイエー事業室」は、今や「社内最大のお荷物」(丸紅関係者)になっているという。
それでも丸紅がダイエー事業から撤退できないのは「ダイエー買収は勝俣相談役が社長時代に独断専行状態で決め、それを財務担当役員として強く支持したのが朝田現会長だった」(丸紅関係者)からだと言われている。
したがって、筆頭株主をイオンに譲れば、勝俣相談役と朝田会長は自らの失敗を認めることになり、さらにダイエーの惨憺たる現状から「全株をイオンに売却しても100億円程度。698億円の買い物がこの値段では、株主の手前、損切りの決心もつかない」(丸紅関係者)という。
売れば勝俣・朝田組のしくじり、売らなければ荷物の重さが増すだけの丸紅は、取締役級交渉でも煮え切らない態度を取るだけだった。
膠着状況を突破するため、イオンの岡田社長が仕掛けたのが年末の極秘トップ会談だった。
その結果、丸紅はダイエー株を売却する見返りに、年間700〜800億円に上るダイエー向けの食品など直接取引の継続、海外を含めたイオングループとの関係強化など10件程度の条件受諾を、イオンに求めた。
そして今年2月下旬、丸紅は勝俣会長(当時)、朝田社長(同)がそれぞれ相談役と会長に就く人事を決め、丸紅はやっとお荷物を手放す決心をした。
●イオン、大都市シフト加速へ
イオンは中期経営計画で「アジアシフト、大都市シフト、シニアシフト」の3シフトを掲げている。すでにJ・フロントリテイリングから食品スーパー「ピーコックストア」を4月1日付で買収するなど、大都市での店舗強化に向けた投資を積極化させている。ダイエーの子会社化も大都市シフト推進への投資となる。
大都市シフトを進めるイオンにとって、ダイエー子会社化後の経営のポイントとなるのがPB商品だ。
売上規模が拡大すれば、PB商品を拡充する上で、NB(ナショナルブランド)メーカーに競争力の高い商品をPB商品としてラインナップさせるための交渉力も高まる。
イオンはPB商品の13年度の売上高を、前年度比40%増の約1兆円に引き上げる計画を立てている。来年4月の消費増税を睨み、NB商品より3〜5割安い格安PB商品を、13年度中に600品目と現在の400品目から200品目増やす予定。現在、約340店のスーパー事業で売上高に占めるPB比率は約20%だが、13年度は25%程度に高める計画だ。
●ダイエー再建に向けた2つの難関
イオンが狙っているのはダイエーだけにとどまらない。
ダイエー株買収交渉で丸紅の交換条件としてのんだ丸紅との業務提携を生かし、丸紅傘下のマルエツや電鉄系スーパーも虎視眈々と狙っていると見られている。小売業界担当の証券アナリストは「これらを含めれば、イオングループの食品小売市場シェアは約14%に高まり、PBの販売力がより強まる。その足がかりとしてもイオンはダイエーが欲しかったはず」と分析している。
だが、ダイエーを子会社化しても、イオンは喜んでばかりはいられない。悲願だった同社主導のダイエー再建には、2つの難関が待ち構えているからだ。
1つ目は店舗の老朽化だ。
ダイエーの店舗の平均築年数は約30年と老朽化が著しく、改装の投資負担は大きい。大都市の食品スーパーを強化したいイオンにとって、ダイエーの大型店舗は誠に使い勝手が悪い。加えてダイエーの不動産賃貸契約は不動産オーナーに有利なものが多く、「契約満了前の退店に関するペナルティが厳しい」(不動産関係者)と言われている。
会社更生法ではなく再生機構による再建を選んだがゆえの足枷でもある。また、岡田社長が「再生機構選択の判断が間違っていた」と言う一因でもある。