「確かに、東日本大震災を機にツイッターが爆発的に普及して以降、ネット炎上の件数が年々増えています。ディー・エヌ・エーの情報サイト『WELQ』のような大規模なものから、蕎麦店のアルバイトが洗浄機に入っている画像をアップして炎上したり、なかには客がコンビニのアイスケースに入ってその姿をツイッターに投稿したりしたケースもありました。
このコンビニの炎上事件では、被害に遭った店舗が営業を停止しています。こういう実例があるため、企業側がネット炎上に対して『漠然とした不安』を抱えているのは事実です」(同)
問題は、ツイッターなどSNSに対する企業側の理解の浅さだ。山口氏によれば、企業はいつ起こるか予測できないネット炎上に対して敏感になってはいるものの、現状ではSNSに対する理解が追いついていないという。
「企業で講演を行っても、ネットメディアそのものへの理解が進んでいないと感じることが多いです。普段ネットにあまり触れていない人がネット担当の広報を務めていたり、炎上が起きたときのマニュアルがなかったり、ということが少なからずあります」(同)
企業側がネット炎上に「漠然とした不安」を抱えているのは、SNSやネットメディアを十分に理解できていないからだろう。ただし、企業がSNSやネットメディアよりもテレビや新聞をはじめとする旧来型のメディアを気にするのには、それなりの理由もあるという。
「実は、『インターネット上の企業の特性と株価』という論文で、『企業のネット炎上事件は、マスメディアが取り上げたときに株価が下がる』ということが実証研究によって示されています【※1】。炎上はネットで起きる現象ですが、株価にも影響を及ぼすのはテレビや新聞が取り上げたときだというのです。まとめサイトなどPV(ページビュー)数の多いネットメディアも株価に影響を与えることが最近の研究で示されましたが【※2】、“拡声器”の役割を果たすのは依然マスメディアだといえるでしょう」(同)
PCデポ事件で明らかになったネット炎上の利点
一方、消費者の立場とすれば、ネット炎上は決して悪い面だけではないという。その代表的な事例が、昨年起きた、家電量販店「PC DEPOT」(以下、PCデポ)の炎上騒動である。
1人のツイッターユーザーが、PCデポが認知症の高齢者にパソコンのサポートサービスを大量に契約させ、家族が解約を申し出たら高額な解約料を払わされたことを投稿。その結果、ネットで炎上し、さまざまなメディアに取り上げられたことでPCデポの株価が下落した。